学芸大学『リ・カーリカ』に学ぶ最強のチーム論。正社員9割で挑む「人が育つ」組織のつくり方
異業種からの転職者も活躍。若手未経験者の登竜門『タバッコ エビス』
育成の仕組みは店舗運営にも組み込まれている。その象徴が『タバッコ エビス』だ。16席ほどのこの店は全員女性だけで運営されており、飲食業界歴10年以上のベテラン1人と、異業種から転身した若手スタッフ2人が活躍している。
「例えば弊社には、元保育士やIT企業出身といった、飲食未経験のスタッフもいます。彼女たちは当初、ラボで仕込まれた食材を仕上げて提供することからスタートしました。そこから徐々に、自分たちでパスタ生地を伸ばしたり、季節の野菜を調理したりと、店内でやる工程を増やしています」
堤氏は月に2回ほど同店を訪れ、「料理勉強会」を実施している。それはまるで料理教室のように、一つひとつの工程を丁寧に教える時間だという。
「未経験だからといって遠ざけるのではなく、ラボのサポートを受けながら、早い段階でお客さまの前に立つ経験を積ませています。最初は『リ・カーリカ』のブランド力でお客さまが来てくれますが、そこからは彼女たちの人間力勝負。自分たちで考え、工夫し、お客さまを笑顔にする。その成功体験こそが成長の近道です」
実際に、未経験からスタートしたスタッフたちも1年が経ち、今では自分たちの手と言葉で料理を語り、常連客をつかんでいる。「失敗を恐れずに任せる」という堤氏の方針が、スタッフの自律心を育てているのだ。
縦社会から「スポーツチーム」へ。マインドセットの変革
技術的な指導に加え、堤氏が特に重視しているのが「チームワーク」の醸成だ。かつての飲食業界にありがちだった「トップダウンの縦社会」ではなく、フラットに連携する「スポーツチーム」のような組織を目指している。
「サッカーやラグビーと同じで、フィールドに立ったら年齢もキャリアも関係ありません。全員の共通ゴールは『お客さまの笑顔』。そのために声を掛け合い、パスを回す。以前は個性の強い『タレント集団』みたいな時期もありましたが、今は互いの強みを知り、補い合うチームになっています」
このチーム作りを支えているのが、密なコミュニケーションだ。タバッキでは、年に1度、全社員が集まる「タバッキ未来会議」を開催。そこで「ストレングスファインダー」というツールを用い、互いの資質や強みを可視化して共有し合うワークショップなどを行っている。
また、ミーティングの数も多い。店舗ごとの「料理ミーティング」や「責任者ミーティング」に加え、全店横断の「ワイン担当ミーティング」「財務ミーティング」など、その種類は10以上に及ぶ。毎月15日にシフトが決まると、店長たちが堤氏のスケジュールを奪い合うようにミーティングの予定を入れていくという。
「僕の役割は、答えを教えることではなく、みんなのベクトルを合わせること。特に店長層にはコーチングの要素を取り入れて、どうすればスタッフのやる気を引き出せるか、どう声を掛ければチームが動くかといった話をよくしています」
さらに、福利厚生の一環として、イタリア研修や国内の生産者訪問も積極的に行う。「なぜこの食材を使うのか」「誰を幸せにするために料理を作るのか」。生産者の想いや哲学に触れることで、料理人としての核となるマインドを育てている。



