軽減税率の対象、どこで線引き? 外食企業・飲食店がとるべき3つの対策とは
昨今のニュースでよく目にする「軽減税率」。飲食店の皆さんにとっては、この動向に目が離せないはず。そんななか、12月12日に自民党と公明党の両幹事長が、2017年4月の消費税率10%への引き上げと同時に導入する軽減税率について、対象を「酒類と外食を除く食品全般」とすることで大筋合意し、文書を発表するに至った。また、15日には消費税の軽減税率の対象になる「酒類を除く食品全般」と、対象にならない「外食」の線引き案が決定した。
そこでここでは現時点での軽減税率制度の合意内容、それに伴う線引き案の詳細、そして飲食店が今から取り組むべき準備について紹介していきたい。
そもそも軽減税率ってなに?
まず軽減税率について簡単に説明したい。消費税は所得額と関係なく、消費者全員に一律で課税でされる。そのため消費税の増税によって、低所得者のほうが高所得者よりも相対的に税負担が大きく感じてしまう。そうした不公平感をなくすために導入されたのが軽減税率である。食品をはじめとした生活必需品への税率を下げることで、不公平感を軽減しようという狙いがあるのだ。
今回の軽減税率制度の合意内容とは?
以下の5点が「軽減税率制度についての大枠」として合意された。
1、2017年4月1日に軽減税率制度を導入
2、対象品目は生鮮食品および加工食品(酒類・外食を除く)とし税率はこれまでの8%を適用
3、財政健全化目標を堅持し、2016年度末までに安定的な恒久財源を確保
4、2021年4月に請求書などに税率・税額を明記するインボイス制度を導入。それまでは現在の請求書の書式を生かした簡素な経理方法とする
5、導入に当たり混乱が生じないよう、政府・与党一体で万全の準備を進める

Photo by star5112「JOH_4487」
要チェック! 軽減税率の線引き案
上記の合意内容を踏まえて、「外食」と「食品」の境目が曖昧な商品に関する線引き案が、15日の自民党税制調査会の会合で了承された。今後は自民、公明両党で詰めの協議を行い、与党税制改正大綱に盛り込むという。
線引き案によると「外食」の定義は、「食品衛生法上の飲食店が、飲食設備(テーブルや椅子)を設置した場所で飲食させるサービスを提供していること」とされている。この定義に沿って「外食」に該当するか曖昧であったケースを整理してみると以下の通りとなる。
※政府・与党による発表をもとに作成
※この内容は2015年12月15日時点での情報です
1、税率が8%になるケース(外食に非該当)
・牛丼店、ハンバーガー店のテイクアウト
・そば店の出前
・ピザの宅配
・すし店のお土産
・持ち帰りが可能なコンビニの弁当や惣菜(イートインコーナーで食べてもよい)
2、税率が10%になるケース(外食に該当)
・牛丼店、ハンバーガー店、そば店、ピザ店、すし店での店内飲食
・フードコートでの飲食
・コンビニのイートインコーナーで返却が必要な食器に入れて提供される飲食料品
・ケータリング、出張料理
この線引きにより、軽減税率の対象商品と対象外商品の両方を扱う飲食店も存在することになる。細かい内容ではあるが、今後の対応を考えるにあたって重要な基準となるだろう。
飲食店が取り組むべき3つのこと
軽減税率制度には多くの不確定要素がある。早めに動くことで十分な対策を練り、導入時の混乱を最小限に抑えたいものである。以下に飲食店として取り組むべき3つの対策をご紹介したい。
1、販売商品が軽減税率の対象になるかを確認して分類整理する
まずは線引き案をよく確認したうえで、販売商品が軽減税率の対象となるか否かを確認しよう。この確認をしっかりと行わないと、不適切な税率で商品を扱うことに繋がるので注意したい。
2、「採算が取れる販売方法」「店内飲食の付加価値提供」を検討する
軽減税率の導入により、同じ商品でも食べる場所や商品の提供形態によって税率が変わってくる。軽減税率の対象になるような販売方法を採用することが、軽減税率導入後の売上確保に繋がるはずだ。具体的には「テイクアウト商品」「出前・宅配サービス」の提供が挙げられる。
もしくは、家に持ち帰って食べることでは味わえない価値で勝負することも方法のひとつである。店内の雰囲気や居心地の良さといった要素はもちろん、接客スタッフの心温まるサービスも「外食」の強みと言えるだろう。こうした付加価値を創造し、消費者へしっかりとアピールしていくことも大切だ。
3、レジや経理実務を軽減税率に対応可能な状態へ
a.レジや商品管理システムを軽減税率仕様に
財務省は軽減税率に中小のスーパーや青果店が対応できるよう、レジ改修や商品管理システムの更新支援として予備費の活用を検討している。しかし、飲食店にまでこの予備費が活用されるかは定かでない。とはいえ、テイクアウト商品等により異なる税率を扱う飲食店にとってレジや商品管理システムの改修・更新は欠かせないだろう。
そうした状況でも対応できるのが、税率管理システムが搭載されているPOSシステムである。POSシステムを利用すれば、商品単位での税率設定が可能となる。今後、さらなる税率変更が行われても、費用をかけずに対応ができるというわけだ。
b.経理実務は担当者と専門家で要相談
今まで一括処理できたものが、軽減税率の導入により、商品の売上や仕入れごとに税金計算が変わってしまう。経理担当者には確認や入力作業で大きな負担がかかると予想されるため、税理士や公認会計士に相談して、懸念事項や注意点について相談しておこう。特に税込経理方式で損益計算書を作っている場合は、軽減税率導入後、収支構成が正確に把握できない。今のうちに税抜経理方式の損益計算書への切り替えをしておくとよい。
軽減税率の導入は懸念事項が多い分、飲食店への影響も大きいと思われる。2017年4月1日の軽減税率導入に向けて、今から正確な情報確認をすることで、慌てることなく準備に臨みたい。
