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個人経営の飲食店が抱える後継者問題。M&Aが地方創成の重要な鍵に

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人気店の閉店理由の多くは「後継者の不在」と「店主の高齢化」

飲食店が閉店する理由は、何も人気の衰退や経営難だけではない。今年10月、伊勢志摩サミットでも寿司を握った津市の名店『東京大寿司』が閉店した。地元でも人気があったという同店がその歴史に幕を下ろした理由は、「後継者の不在」と「店主の高齢化」。これらは、長年経営を続ける飲食店経営者の多くが直面しうる問題である。

帝国データバンクの「後継者問題に対する企業の実態調査」によると、飲食店が含まれるサービス業の後継者不在率は71.3%。国内企業の後継者不在率は66.1%となっており、サービス業は他業種と比較しても最も高い数値となっている。

国や地方自治体も力を入れている

今や、こうした飲食店の後継者不足問題は、国や地方自治体をも関心を寄せる問題に発展しており、積極的な支援が始まっている。全国47都道府県に設置された「事業引継ぎ支援センター」は、無料で事業承継について相談できる公的な窓口。別途手数料がかかるが、交渉、契約といった企業並みの取り組みも行っている。なかでも、積極的に活動をしているのが静岡県。2014年から全国でも初めて、後継者不足に悩む企業と起業家を結びつける「静岡県後継者バンク」の運営を開始した。この取り組みは、国の日本再興戦略にも導入され、長野県や秋田県といった地方自治体への広まりを見せている。

当初は、なかなか事業承継ができないと言われていた国や地方自治体の取り組みだが、東京都事業引継ぎ支援センターでは、24年度の成約件数が3件だったのに対し、27年度では32件と年々増加。また、中小企業庁が作成した資料によると、後継者不足に悩む焼肉店経営者が後継者バンクを利用し、若い起業家に事業を承継したという成功事例もある。

M&Aで事業を承継するという方法も

国や自治体のサポートのほか、近年よく耳にするようになったM&Aも事業を続ける方法の一つである。M&Aとは、Mergers(合併)&Acquisitions(買収)の略で、店舗、スタッフ、株式などを親族や従業員でなく、第三者に買い取ってもらう事業承継方法のことをいう。

福岡県内に4店舗を構える『因幡うどん』もM&Aで事業売却をしたお店。かねてより後継者問題に悩んでいた『因幡うどん』であったが、今年6月、博多一風堂を全国に展開する「力の源ホールディングス」が承継し、その歴史あるうどんの味を有名ラーメン店が引き継ぐ形となった。『因幡うどん』の事業方針や内容は今までと変わらないという。

M&Aによって事業売却をするメリットは、飲食店の後継者問題解決だけではない。事業のさらなる発展を願い、M&Aを活用することもできる。意欲ある企業が買い手に名乗りを上げれば、事業の発展が見込める。M&Aによって店舗数が拡大する可能性だってあるのだ。

もちろん、メリットだけではなく、デメリットが発生する可能性もある。一番に考えられるのは、経営者が変わることによる労働条件の変化だろう。経営者が変わり、組織の体制や経営方針が大きく変わるという可能性は否めない。組織体制の変更から従業員が辞めてしまう可能性もある。それだけに売却の交渉時には、今後どういった経営方針で仕事を進めていくのかを慎重に話し合う必要がある。大切なのは、承継先の企業が自分の店舗や従業員のことを考えてくれるのかを見極めることだ。

『因幡うどん』のように後継者不足に悩む飲食店は後を絶たない。実際に自分の後を引き継いでくれる人材を探しているという人も多いだろう。とはいえ、一人で承継先の企業を探すというのは困難が伴うものである。後継者不足に悩む飲食店は、自治体が運営する「事業引継ぎ支援センター」や「M&Aの仲介業者」に相談をしてみることが、悩みを解決する大きな手だてとなるはずだ。

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サトウカオル

ライター: サトウカオル

グルメ、ライフスタイル、ITとさまざまなジャンルの執筆を経験。現在は、ポップカルチャー系のウェブサイトでグルメ関連の記事を執筆中。趣味は、料理とネットサーフィン。ネットで気になった料理を自分流にアレンジして食べるのが最近のマイブーム。