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西日本豪雨、被災地救った飲食店に感謝の声。尾道いっとくグループ「こんな時こそ街に明かりを」

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居酒屋『遊食楽食いっとく』は、断水の中で営業した

弁当の無償提供や炊き出し、店は給水所としての役割も

さらに、「居酒屋甲子園」の元理事長である山根さんのもとには、全国各地の飲食店仲間から水などの物資が届き始めた。それをもとにスタッフやボランティアらと弁当を作り、市に無償提供したほか、炊き出しも行った。

「炊き出しは2日間、尾道大学の食堂で行いました。物流がストップして食材もあまりないし、水も出ない。気が滅入って、食べる気がしないという人もいた。そこで温かいカレーにしようと。飲食仲間の支援もいただき500食くらい作らせてもらいました」。

全国の飲食店仲間から届いた水で給水所を設置

また、断水で困る街の人たちに向けて、店の前に給水所を設けることに。自衛隊などによる給水活動はあったものの、1人6リットルまでの制限付きだったことからとても喜ばれたという。さらに、系列店のテイクアウト専門店『YAMANEKO MILL』では、休業で余ってしまった商品のプリンのほか、食材用にストックしていた牛乳を、スタッフの声から無償で提供することに決めた。どちらもSNSなどで情報を拡散し、多くの人が店を訪れた。

「今まで話したことがなかった近所のおじさんとかが、毎日給水に来てくれるんです。そのたびに一言二言交わしていたら、給水が終わった後も、挨拶を返してくれるようになったとスタッフが話していました。おかげで地域の絆は、深まりましたね」。

SNSだけでなく、店の前の張り紙でも給水を知らせた

生活は元通りになるも、風評被害による新たな課題も

7月下旬には、断水も解消し、徐々にいつもの生活を取り戻し始めた尾道。しかし、現在、新たな課題に直面していると山根さんは話す。

「観光客の激減です。被害が大きかった地域は確かにありますが、尾道はもういつもの生活を取り戻しています。でもこの夏は観光客も、例年多くいるしまなみ海道目当てのサイクリストもとても少なかった。もとの客足に戻るまでに、3年はかかるんじゃないかという声もあるほどです」。

このままでは廃業を考える店も出てきてしまう。そんな現状を打破しようと、山根さんは尾道観光協会と協力して、西日本豪雨の風評被害を払しょくする全3部作の復興プロモーションビデオを制作提案することに。「尾道はもう元気じゃけぇ!!」を合言葉に、8月24日現在で第二弾までをYouTubeなどで公開している。その第一弾となったのが「あの人と食べたい編」。いっとくグループをはじめ、尾道の飲食店が一丸となって制作に協力し、美味しい尾道グルメの映像がシズル感たっぷりに流れる。さらに今後は尾道市や市内の飲食店と協力して、10月20・21日に「尾道まちなかフェス」のイベントなども予定している。

「これまで、東日本大震災や熊本の地震の時に、トラックを借りて物資を運んだりしたのですが、今回は全国の仲間たちが、僕たちを助けてくれました。そういった周りの助けや経験があって、僕らは今回、パッと動けることができた。地元の皆さんからも『いっとくがあってくれて良かった』と言ってもらえた。地域とともに生きていくことを目指す僕らにとって、今回の災害は、自分たちのあり方を見つめ直す機会になったと思います。飲食店を経営している人って、『人のために何かしよう』って思える人が多いと僕は感じています。今後は、全国の飲食店の、志がある人たちとの繋がりを広げていって、この経験を生かしていきたい。そうすれば『飲食店、いいな』って思う人も増えてくれるんじゃないかな」。

生活の基盤となる「衣食住」のなかでも、生命線となる「食」を担う飲食業。今回の豪雨災害では、被災エリア外からの支援はもちろんのこと、いっとくグループをはじめ、自ら被災者となりながらも「何かできることを」と働いた飲食店関係者が多くいた。現地での小さな取り組みは、大きなニュースにはならなかったかもしれないが、被災者にとっては忘れられないほどにうれしい出来事だったに違いない。そんな出来事の積み重ねによって、被災地は復興に向けて新たな一歩を踏み出している。

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戸田千文

ライター: 戸田千文

広島・東京を中心に活動するフリーランスの編集・ライター。これまでにグルメ冊子や観光ガイドブック、町おこし情報誌などの編集・執筆を担当。地方の魅力を首都圏に発信する仕事をするのが夢。おいしい地酒を求め、常にアンテナを張り巡らせ中。