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福岡の街にクラフトビール文化を。『エルボラーチョ』が大名にビール醸造所を作るまで

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オリジナルのクラフトビールは「ペールエール」と「ヘイジーIPA」の2種類

豊富な知識を持つ醸造家との出会い

その間、杉山さんは一人のアメリカ人と出会う。アメリカでホームブルワーをしていたDavid Victor氏だ。

「彼はビールが大好きで、ビールに対する情熱が凄いんです。醸造できる人を探していたら、福岡にいるよと紹介してもらって。私が質問すると、求めている150%の答えが返ってくるんです。発酵の過程や処理の仕方など、とにかく知識が半端ないんですよね。さっそく醸造担当として入ってもらうことにしました」

しかし、ホームブルワーとしてビールを造っていたDavid氏にとって、タンクでビールを造ることは初めてのこと。設備の調整などに多少の時間を要し、今年9月、ようやくオリジナルのクラフトビールが完成した。

「1回目に作ったのは美味しくなくてすべて捨てました。といっても、ビールは勝手に捨てることができないので、税務官に立ち会ってもらわなければならなかったんですが。2回目以降は美味しいものができ、自分たちで味を確認しながら、ようやくお客様に提供できるレベルのものが完成したんです」

今回、提供販売がスタートしたのは、ホップ由来の程よい苦味と柑橘系の香りを感じる「ペールエール」と、トロピカルな香りと滑らかな口当たりが特徴の「ヘイジーIPA」の2種類。

「ポートランドへ行ったときに飲んだヘイジーIPAがダントツに美味しくて。日本ではまだあまり知られていない、ヘイジーIPAを作りたいと思いました。また、クラフトビールはたくさん飲めるものではないので、2杯目以降は軽めの「ペールエール」を飲んでもらえればと考え、この2種類をリリースしました」

現在、この2種類を飲めるのは、『FUKUOKA CRAFT』のみだが、すでに東京や熊本、札幌のお店からオーダーが入っているという。

「ビールは発酵熟成させるのに2週間ほどかかりますが、6つあるタンクのうち発酵タンクは2つしかありません。1つのタンクで造れるのは500リットル。即ち1か月に2,000リットルしか造ることができないんです。現在は樽詰めで販売していますが、いずれ瓶詰めにしてもっとたくさんの人に飲んでもらえるようにできたらいいですね」

醸造を担当しているDavid Victor氏

クラフトビールの文化を福岡の街に根付かせたい

オリジナルテキーラ「Shizuku(雫)」を造ったり、メキシコ料理の食材を販売したりしている杉山さんだが、これまでには失敗したことも多かったそう。

「とにかく本物を提供したいという思いが強く、納得したものを提供したいんですよね。“エルボラ自給率”を上げていきたいんです。数日前にはメキシコから乾燥唐辛子や豆が届き、さらに自給率が上がりました。自分がつくりたい味を100%作ろうと思うと、根っこにある食材から作らないとダメなんです。究極を言えば、農業からやりたいくらい。すべて自分が納得できるカタチで提供したいんですよね」

一方で、福岡の街でクラフトビールをつくる店が増えたらいいとも杉山さんは言う。

「ビールって個性が出しやすいし、福岡ってクラフトビールが美味しい街だよねとなると面白いですよね。私たちはタンクを輸入するのに苦労をしましたが、ここに至るまでのノウハウはどんどん伝えていきたいと思っています。1社だけでやる強みはあるかもしれないけれど、それは一瞬だけ。長い目で見ると、福岡の街にクラフトビールの文化が根づき広がっていた方が絶対にいいはずです」

アメリカのポートランドはコーヒーとクラフトビールの街として知られ注目を集めているが、近年、福岡はコーヒー文化が盛り上がりを見せており、ここにクラフトビールの文化が加われば、福岡の街がさらに面白くなるはずだ。

自身の店を成長させるだけでなく、メキシコ料理やクラフトビールの文化を日本で広める活動をする杉山さん。その動向にこれからも注目していきたい。

『FUKUOKA CRAFT』
住所/福岡市中央区大名1-11-4
電話番号/092-791-1494
営業時間/17:00〜翌2:00(土日祝は15:00〜)
定休日/無休

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寺脇あゆ子(cadette)

ライター: 寺脇あゆ子(cadette)

福岡・大阪の出版社勤務を経て、福岡を拠点に活動するフリーの編集者・ライター。グルメ情報誌『ソワニエ』やシティ情報ふくおか別冊『福岡肉本』などの地元情報誌のほか、ぐるなびが運営する『dressing』、スイーツ専門の『CAKE.TOKYO』、ウェブマガジン『greenz.jp』などのウェブメディアでも九州・福岡を中心とした情報を発信している。