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M&Aで始める飲食店開業。家主が買主に店舗契約を継承しない「破綻条項」にも注意

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画像素材:PIXTA

売主から優先交渉権の付与を

売主側、買主側がトップ面談を通じて初めて顔を合わせました。これまでは双方ともにアドバイザーを通じてやりとりを行ってきましたが、ここから先は相手先の表情も見えていますので、一層互いに配慮し、緊張感を持ってスピーディーに取り組んでいくことが重要になります。

買主はトップ面談終了後に、面台内容を踏まえて検討を最終段階まで進める場合、そのスケジュールや売買価格の目安、資金の調達方法や買収後の展開イメージなどを記載した「意向表明書」を売主に提出します。

売主はこの段階で、どの買手候補との優先的に最終交渉を進めるか、判断します。一般的には最終交渉の一定期間は、特定の買手候補とだけしか商談を行わない優先交渉権を売主が買主に付与します。買主は優先交渉権が付与されている優先交渉期間内に最終の条件回答ができるよう、迅速に必要な調査を進めていきます。

また調査を行った結果、大きな調整事項がなければ、事前に定められた金額で合意するといった内容を両社で定めた、「基本合意契約書」を締結します。

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最後で立ちはだかる「家主」の壁

いよいよ最終契約です。最終契約とは、株式譲渡の場合は「株式譲渡契約」、事業譲渡の場合は「事業譲渡契約」となります。アドバイザーが提示する契約書案に対して一定期間をもって双方が双方の依頼する弁護士に内容確認を行い、修正の要望を提示し、協議・調整の上、合意に至れば締結となります。

一般的にはこの段階で成約となるわけですが、飲食店のM&Aの場合は、最終契約に「破綻条項」を設けることがあります。破綻条項とは、売買契約成立後に条項に定められた内容が解決しないと、契約自体が無効になるといったものです。その内容とは、承継する各店舗の賃貸主の承諾を得ることです。

■表2「成約のタイミング」

飲食店経営は店舗ビジネスから、5店舗あれば5人の家主が存在します。家主が買主である新賃貸人への契約承継を認めなかった場合には、売買が成立しないので無効となるわけです。契約内容にもよりますが、株式譲渡契約の場合だと賃貸人名義が変わるわけではありませんので、家主への通知だけで完了することが多く、スムーズに進むことが多いです。

一方で事業譲渡の場合は、現在の賃貸契約をすべて終了させ、買主である新賃貸人が新規で家主と賃貸借契約書を締結しなければならないケースがほとんどであるため、一定の時間と負担がかかる上、慎重に手続きを進める必要がございます。

特にこの部分における進め方の段取りは、経験豊富なアドバイザーでなければトラブルになったり、家主から承認を受けられず、これまでの交渉の努力が無駄に終わってしまうこともしばしばあります。これは他の業種と比較すると飲食店M&Aの大きな特徴であり、難しさの一つです。そしてこれらの課題をクリアして、はじめて成約となるわけです。

株式会社ウィット 代表取締役・三宅宏通氏
2005年UFJ銀行に入行(現・三菱東京UFJ銀行)。上場企業を中心とした融資担当、アシスタントとして活動。2007年に飲食業界に特化したM&A仲介業、人材紹介業を目的にウィットを設立。飲食業界を専門とした仲介サービスの事業者はほとんどなく、毎年問合せ件数、成約件数を伸ばし続けている。

※雑誌「ビジネスチャンス」2018年6月号より転載

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『飲食店ドットコム ジャーナル』編集部

ライター: 『飲食店ドットコム ジャーナル』編集部

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