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コーヒーの移動販売から実店舗を構える。福岡『Hand anything』の開業ストーリー

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カフェ『Hand anything』店主の秋利康介さん

「飲食店を開きたい」。そう考えた時に、一番気になるのは資金のこと。それとは別に、物件探しや市場リサーチなど、開業のために必要なことは山ほどある。不安を覚えて、最初の一歩を踏み出せないこともあるだろう。そんな人にぜひ知ってもらいたいのが、福岡市の赤煉瓦文化館内に店を構えるカフェ『Hand anything』の開業ストーリーだ。

2018年に脱サラし、大阪から福岡へ。新天地に来て4か月で、自転車を使った“移動喫茶”を始めた。あえて移動喫茶というスタイルを選んだ理由、そして赤煉瓦文化館内に店を構えるようになったきっかけを店主・秋利康介さんに聞いた。

土地勘ゼロ、人脈ゼロの福岡で独立の夢を叶える

「学生の頃から、いつかは独立したいなって思っていたんです。その頃はまだ、業種も決めていなかったんですが、会社員の頃に大阪で出会ったカフェのオーナーの影響で、『コーヒーを主役にした店をやりたい』という気持ちが大きくなっていったんです」

そう話すのは、『Hand anything』の店主・秋利康介さん。2018年の夏、妻の転勤を機に福岡へ移住した。そのタイミングで勤めていた会社も退職。30歳を前に「独立するなら福岡で」と、決意を固めた。とはいえ、秋利さんにとっては初めての福岡暮らし。当然、店を持つことに不安はあった。

「はじめは物件を借りて、店舗を持とうと思っていたんです。でも、僕は福岡のことを何も知らない。土地勘がないから、どんな人がどこに住んでいるかも分からないため、どこに店を出すのがいいのか分からない。さらに人脈もありません。その状態で、店舗を構えるのは危険だなと(笑)」

このまま店を構えるのは、コストもリスクも大き過ぎる。そう感じた秋利さんは、移動販売に目を向ける。まずはよくあるキッチンカーを検討したものの、車そのものが高額で、さらに飲食店仕様に改装するにもお金がかかる。車検費用や駐車場代を考えると店舗を持つのとあまり変わらないのではとの結論に。そんなときに思いついたのが、自転車での移動販売だった。

「自転車屋さんで、30万円ちょっとする自転車を20万円ぽっきりで購入することができて。あとはDIYで移動用のボックスなどを作りました。初期費用は50~60万円程度でしたね」

自転車で営業していた当時の様子

自転車ならではの小回りで、市場調査や人脈作り

こうして2018年11月、ついに自転車移動喫茶『Hand anything』をオープン。福岡の中心地・天神の二駅隣、平尾エリアにある自転車店の軒先でコーヒーを販売し始めた。すると見慣れない移動喫茶に興味を持つ人も多く、徐々に「うちの店でもやってほしい」と声がかかるように。

「自転車屋さんはもちろん、パン屋さんや雑貨屋さん、いろんなお店の軒先をお借りしました。店舗の前でコーヒーを販売することで、にぎわい作りや話題作りにもなり、そのお店を知らない人が立ち寄ってくれて集客のお役に立てることもあったりして、喜んでくれる店主さんも多かったんです。徐々に人脈が広がっていきました」

オフィスが集まる薬院エリア、天神に隣接し若者も多く行きかう大名エリア、飲食店や雑貨店が並ぶ今泉エリアと、日ごとに活動エリアを広げていった秋利さん。何も知らなかった福岡の街を毎日、自転車で移動し出店することは、その土地や行きかう人の特徴を知ることができるいい市場調査の機会になった。

とはいえ、やはり移動販売ならではの苦労もある。いくら福岡がコンパクトシティであるとはいえ、毎日、コーヒーを入れるための道具に大量の水などを載せた自転車移動は、それだけでも大変だ。さらに雨や風、気温などの影響を受けやすく、「雨が降った日はお休みしていました」と苦笑い。そこで、そろそろ店舗を持とうと思った矢先に声をかけてくれたのが、現在、店を構える福岡市赤煉瓦文化館の一部運営を行うNPO法人だった。

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戸田千文

ライター: 戸田千文

広島・東京を中心に活動するフリーランスの編集・ライター。これまでにグルメ冊子や観光ガイドブック、町おこし情報誌などの編集・執筆を担当。地方の魅力を首都圏に発信する仕事をするのが夢。おいしい地酒を求め、常にアンテナを張り巡らせ中。