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スタッフの待遇改善はスタート地点。フレンチ名店『L'AS』で働き方改革の「その先」を見た

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フレンチの名店『コート ドール』にてスタッフ全員でランチ会を開催。写真中央は、兼子さんの師でもある『コート ドール』斉須政雄シェフ

本格的なフルコースを5,000円で提供する表参道のフランス料理店『L’AS(ラス)』が、いわゆる「働き方改革」を実践し始めたのは2016年頃のこと。その内容については、すでに『Foodist Media』でも何度か取り上げてきた。前回の記事では、労働時間の短縮や給与アップといった待遇改善を行いつつも、売上・利益はしっかりキープすることができた理由にフォーカス。多くの反響を呼んだ。

あれから一年。改めてオーナーシェフの兼子大輔さんに現状を伺うと、昨年からの働き方改革で得た健全なゆとりを糧に、さらなる好循環を生み出している様子が見えてきた。

集客数の増加は“良質な営業”の賜物

『L'AS』の経営状況は相変わらず好調だ。たとえば、集客人数を昨年と今年の1月時点で比較すると、一日あたりで平均16名も増加。もちろん、それに比例して売上も上がったという。こうした結果について、兼子さんは以下のように分析する。

「集客数の増加には、インスタグラムを中心としたSNS効果など様々な要因があると思います。でも確実なところとしては、やはり昨年一年間、お客様一人ひとりにきちんと支持していただけるような“良い営業”ができたからだと考えています。そして、それを実現できたのは、スタッフのレベルが底上げされたことが大きな理由。良い料理、良いサービスを提供しようという気持ちだけでなく、それを形にするだけの実力を身に着けたことが、集客数の大きな伸びにつながったのだと考えています」

『L'AS』オーナーシェフの兼子大輔さん

実際、『L'AS』で働くスタッフの勤続年数の推移を確認すると、集計を開始した2016年は「3年目以上のスタッフ」が39%と全体の半数以下だったにもかかわらず、2019年には67%にまで上昇。定着率が向上した分、経験豊富でスキルの高いスタッフが増え、店のレベルも自然と底上げされたというわけだ。

だが、もし『L'AS』における働き方改革が、待遇改善の実施だけで終わってしまっていたら、恐らくここまでスタッフを定着させることはできなかっただろう。兼子さんは、彼らがなぜここで働いているのか、その真の意味に改革の焦点を合わせていた。

休みを増やすこと自体が目的ではない。料理人としての向上心を満たせる場でありたい

昨年の取材の後、『L'AS』では従業員全員で7日間のイタリア研修旅行を実施している。旅行中はワインやチーズなどの製造工場を見学したほか、名高い星付きレストランにも訪れ、五感で知見を深めたという。まずは率直に、旅行の感想を伺った。

「楽しかったですよ。スタッフ全員で一週間かけて行ったので、みんなも喜んでいました。旅行中はお店も休みましたし、費用としては1,000万円近くかかったのですが、その分、得たものも大きかったと思います」

イタリアの野菜産地を訪問。真剣に話を聞くスタッフたち

昨年実施された研修イベントはこれだけではない。『コート ドール』などの高級レストランで行う食事会、シェフソムリエによるワイン講習会、さらには『L'AS』で提供する月替わりのコース料理をスタッフ全員で味わう試食会も毎月開催。すべてはスタッフの向上心を刺激するためだ。

「試食会に関していえば、うちで出しているコース料理の理解を深める目的で行っていますが、スタッフの勉強になっているのはもちろん、営業する上でのメリットにも繋がっています。やっぱり料理を実際に食べているのとそうでないのとでは、お客様に料理の説明を行う際の説得力に違いが生まれますし、それがお客様の満足度にも影響を与える。スタッフ全員で試食しますから、その分のコストはかかりますけど、それを補って余りあるメリットがあるんです。そもそもうちのような個人経営のレストランで働くスタッフたちは、根底に『もっと料理が上手くなりたい』『いずれは自分のお店を持ちたい』という気持ちを持っているはずなんです。だから、待遇がある程度改善できた後は、こうした向上心を満たしてあげなければならない。彼らのやりがいにつながる部分を充実させてこそ、ずっと一緒に働けるようになるんだと思います」

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田中恵実子

ライター: 田中恵実子

編集プロダクション在籍時にグルメやライフスタイル、住まいなどをテーマとしたさまざまな雑誌・Webマガジンにて取材&執筆をおこなう。現在はフリーランスとして、女性向けショッピングサイトなどの編集執筆を担当。世代より少し上の歌謡曲やJ-POPを愛聴。