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スタッフの待遇改善はスタート地点。フレンチ名店『L'AS』で働き方改革の「その先」を見た

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コース料理の試食説明会。一皿ごと、調理についての細やかな解説がなされる

スタッフ同士が良好な人間関係を築けるための工夫

人間関係の良し悪しは、働く環境の雰囲気を大きく左右する。飲食店においては、キッチン担当とサービス担当の関係性がギクシャクすることはよくあることなのだそう。兼子さんはその大方の理由が、勤務時間や忙しさのタイミングが互いに異なるためだと考えている。ある程度仕方のないこととはいえ、その状況は決して好ましいものではない。そこで『L'AS』では、キッチンとサービス両スタッフの入り時間と帰り時間を同じにした。

「自分が忙しいときにそうでもない相手を見ると、誰でも何となくイライラしてしまうものですよね。なので、キッチン担当もサービス担当も出退勤時間を揃え、さらに業務負担をなるべく均等にすることで、そうした不満を和らげるようにしたんです」

仕事のセクションはフレキシブルにして、サービス担当が料理の仕込みをすることも、キッチン担当が接客をすることも可能にした。これによって、互いの仕事に支障をきたすことなく、業務時間の統一に成功。関係性を良好に保てるのはもちろんのこと、スタッフ一人ひとりが業務を多角的に見られるようになるなど、良いことづくめだったという。

こうしたケアは、基本となる待遇改善から、さらに一歩踏み込んだものだと言えるだろう。労働環境が整った状態からより快適に、みんなが気持ちよく働ける状態を目指すものだ。長く働きたくなる理由は、こんな細やかな環境づくりにもありそうだ。

『L'AS』の統括マネージャーであり、シェフソムリエでもある常盤努さん(右奥)によるワイン講習会

働き方改革の「その先」を極めたい

取材中、仕込み作業を行っているであろう厨房から、何やら集中度の高そうな活気を感じた。聞けば、コースで提供するメニュー「白子のパイ包み焼き」に使うパイ生地を、すべて手作業で折り込んでいるところだという。

「最初はみんな折れなかったんです。でも教えていくうちにマスターしてくれた。お客様は一日100名ぐらい入るので、工数としては相当な量なのですが、みんな一から手で折って作った方が断然美味しいことを知っているから、一生懸命やってくれる。既製品を使うことは簡単だけど、それでお客様の感動レベルを下げ、従業員のやりがいまで削いでしまったら元も子もないですからね」

働き方改革を行ったとはいえ、『L’AS』だからこその厳しさはしっかりと残す。手の込んだ仕込みをスタッフ総出で行い、ひとたび営業が始まれば戦場と化した店内を全力で駆け抜ける。毎日の業務は決して楽ではない。しかし、その厳しさこそが「やりがい」であり、スタッフが求めているものであると兼子さんは考えているのだ。

「働き方改革というと、多くの場合、給与アップや勤務時間の調整といった、基本的な業務改善に終始しがち。でもあくまでそこはベースであって、うちではスタッフ自身に『なぜ自分がここで働いているのか』という理由をもたせてあげる、やりがいや技術面での向上心を満たしてあげるところまでやっていきたいんです。そして、最強のチームにしたい。いずれうちを卒業していくスタッフたちが、『やっぱりL'ASで働いていたスタッフはいいね』と言ってもらえるようにするのが目標です。今後はそういう意味での“続・働き方改革”を、とことん突き詰めたいですね」

働き方改革の、その先へ。L'ASの進化は終わらない。

『L’AS(ラス)』
住所/東京都港区南青山 4-16-3 南青山コトリビル1F
電話番号/080-3310-4058
営業時間/17:30~L.O.22:00
定休日/不定休
席数/65
http://www.las-minamiaoyama.com/

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田中恵実子

ライター: 田中恵実子

編集プロダクション在籍時にグルメやライフスタイル、住まいなどをテーマとしたさまざまな雑誌・Webマガジンにて取材&執筆をおこなう。現在はフリーランスとして、女性向けショッピングサイトなどの編集執筆を担当。世代より少し上の歌謡曲やJ-POPを愛聴。