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『カオカオカオ』新井氏の3つの戦略。コロナ禍でも攻めの出店、その理由とは!?

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『タイ屋台999』の代表・新井勇佑氏

いまだにコロナ禍によるダメージが抜けきらない外食業界。そんな中、新井勇佑氏が代表取締役をつとめる『タイ屋台999(カオカオカオ)』は、2020年7月9日に6店舗目となる日比谷グルメゾン店をオープンした。年内にさらに2店舗の新規出店を考えているという。飲食店の撤退が相次ぐ今、あえて攻めの姿勢をとる新井氏は、昨今の情勢をどうとらえているのだろうか?

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「僕はコロナによる変化って実はそんなに大きくないと思っているんです。今回の変化はコロナという外的要因によるものと思われがちですが、僕はもともとあった内的要因による変化が、コロナによって加速されたという風にとらえています。その内的要因とは何かというと、SDGsです。SDGsが地球目標になっている以上、各国の大企業の目標になります。大企業がSDGsを達成しようとすると、下請け企業や一般の人達にも影響があります。世界は数年前からずっとSDGsの方向に向かっていたのです」

SDGsとは「Sustainable Development Goals(持続可能な開発目標)」の略称。2015年9月の国連サミットで採択されたもので、国連加盟193か国が2016年から2030年の15年間で達成するために掲げた目標である。17の大きな目標に169のターゲットが決まっている。

SDGsの17の目標(国際連合広報センターのホームページより)

「コロナのような外的要因が起こった時は、みんなが幸せになることを考えます。例えば災害や貧困をなくす方法、エネルギーをクリーンにすること、リモートワークなどの働き方改革です。コロナが起こってから、多くの人が自分の人生や幸せを見つめ直し、利益ではなく、価値を求めるようになってきました。SDGsもそれを目標に掲げているので、変化する方向は変わりません。コロナによって変化のスピードが加速し、それについていけない人との間でひずみができているのが今だと思います」

SDGsという言葉にピンとこない人もいるかもしれないが、新井さんは「最近の報道を見ても、コロナ以外のニュースはほとんどSDGsに分類できる」と語る。クリーンエネルギーの推進やエコカー、働き方改革などはすべてSDGsの169の項目ですべて説明がつくものだ。外食の取り上げられた方も「あの店の〇〇が美味しい」という紹介から、サステナブルシーフードや、ひとり親家庭・病院への食の提供、全国の絶滅しそうなメニューを残していく「絶メシ食堂」など、SDGsの流れに沿ったものにスポットが当たることが多くなっている。

「意識している、していないにかかわらず、僕らはすでにその流れの最中にいるのです。今、多くの人の思考が変わってきています。例えば、コロナ前は外食するのが楽しみだったという人が、今は奥さんと動画を見ながら一緒に料理を作るようになっています。以前は贅沢したい日に焼肉屋に行っていたけど、今は家の無煙ロースターで肉を焼くのが好きになったという人もいます。美味しいと評判のお店で肉を買ったとしても、外食の半分ぐらいの費用で焼肉が楽しめて、余ったお金を違うことに使えますよね。そういうことに豊かさを見出すようになってきているのです」

外食の機会が減った分、家庭での食事がバラエティに富み、充実してきている。そして、そのことに幸せを感じるように人々の思考が変化していきているのだ。

「消費者の食に対する思考が変化しつつある」と語る新井氏

『999』3つの戦略

外食を楽しむ習慣やマインドが変わってきている今、コロナ前と同じような経営方針ではなかなか客足が戻ってこないかもしれない。『999』ではどのような戦略を立てているのか聞いてみた。

「1つ目が専任化。2つ目が兼任化。3つ目が内外化です。専任化とは自分のブランドを確立するために、専門性をつけていくことです。飲食店の場合は『業種×業態×テーマ×スローガン×教育』をブランドと呼んでいます。ブランドにSDGsに必要なことを掛け合わせるのが専任化です。どのエリアでもいいので、地域の飲食店を観察してほしいのですが、今この状況でも、専門性が高い店には人が戻ってきています。普段は食べられないような『価値』を提供しているからです。反対に大衆向けの食堂は大手であっても苦戦しています」

『999』はタイ屋台料理という珍しいジャンルであり、さらにオリジナルメニューの開発にも力を入れている。専門性が高ければ従来のようにイートインのみで集客できる可能性があるという。それだけで厳しい場合に打てる手が「兼任化」である。

「外食産業の需要と供給のバランスが変わってきている今、『兼任化』が重要なテーマだと私は考えています。具体的には外食と内食の兼任や、他業種との兼任化などが挙げられます。居酒屋の軒先で野菜や総菜を売るフードサプライの『八百屋PLUS+』はまさに他業種との兼任化です。また、出店の兼任化も重要になってきます。出店エリアは、その特性ごとに『オフィス街』『オフィス歓楽街』『歓楽街』『歓楽住宅街』『住宅街』『商業施設』に分けられます。『商業施設』の中でも、住宅街にあるものは『商業住宅街』と呼んでいます。以前は仕事帰りにオフィスの近くで飲んでいた人たちが、リモートワークになってから住宅街で飲むようになりました。ですから住宅街は比較的売上がよく、オフィス街にある店舗はなかなか人が戻っていません。こうした需要と供給のバランスはいつ崩れるかわからないので、いろいろな事態に備えて、エリアの兼任をすることが大切なのです」

『999』としては今後需要が伸びると考えられる歓楽住宅街エリアを狙って、年内に2店舗出店する予定だという。

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三原明日香

ライター: 三原明日香

編集プロダクションに勤務し、フリーライターとして10年以上活動。ふとしたことから労働基準法に興味を持ち、4年間社労士の勉強に打ち込む。2014年に試験に合格し、20年4月に開業社労士として独立した。下町の居酒屋で出されるモツ煮込みが好物。