飲食店ドットコムのサービス

消えゆく名店の味を残す! 元・大手副社長が挑む「まぼろし商店」が話題

LINEで送る
Pocket
follow us in feedly

「まぼろし商店」の構想について語る大久保社長

ビジネスの背景にある思い「文化の承継」

消長の激しい飲食業界では次々と店舗が誕生し、その一方で消えていく。消えゆく店舗の人気メニューに惹かれた客にとっては「美味しい料理が食べられなくなる」という思いだけでなく、その場の雰囲気、人間関係などを含めた空間を喪失し、人生のワンピースが欠けてしまう思いをする人もいるはず。人気メニューは“優れた料理”にとどまらず、一種の文化に昇華している。入口は「ご近所を豊かにする」であっても、飲食業に携わる人間として、文化を残したいという思いもこのビジネスへとつながった。

また、「まぼろし商店」の発想のベースには、優れたメニューを作り出し、歴史を積み重ねてきた人々への敬意があり、それが売上の一部を店主に還元するシステムになっている。

積み上げてきた先人の苦労に敬意を表しつつ文化として承継させていこうという、ある種、高尚と呼んでいい思いがビジネスの背景にある。「今はそういう考えです。ただ、赤字を出し続けるわけにはいきませんから、どうやって収益化するかは考えていますが、今の段階では(赤字は)それほど気にしていません」とする。

その上で、「この事業は赤字スタートでしょう、多分。でも、僕は収益なんてどうでもいいんです。時間をかけていいブランドにしていけるかが重要で、お店が増えていけばいいブランドになっていくはずです。最初は収益は考えず『やりたいからやってる』という感じです」と、その社会的意義に重きを置く姿勢を強調する。

今後の展開については、通販、既存の店舗でメニューとして出す、デリバリーなどのシェアリングブランドなど、メニューの性質に合った販路を選択していく。また、「まぼろし商店」という実店舗も出す可能性があるという。将来は直営店と「まぼろし商店」の売上比率を「五分五分ぐらいになれば最高です」と話す。

メンチカツのパッケージ

再現された味を楽しむ時間は「文化」

『塚田農場』というチェーン店を展開する会社の副社長を務めた大久保社長が、チェーン店とは対極にある歴史ある小型店舗が作り出した文化の存続に奔走することは興味深い。それは大久保社長自身が、過去の実績にこだわらず、新しいことにチャレンジし続けていることにほかならない。

「まぼろし商店」という店舗ができて、多くの人が昭和や平成の時代の思いを胸に当時の味を楽しむ光景は想像するだけでも楽しい。「これを食べていた時、自分はこんな感じだったな」と思い出しながら食べるひと時は文化と呼んでも差し支えないのではないか。

大久保伸隆(おおくぼ・のぶたか)
1983年、千葉県出身。駒澤大学経営学部。株式会社ミナデイン代表取締役。学生時代にホルモン焼きの店でアルバイトをして、飲食業界の魅力を覚える。卒業後、大手不動産会社に就職するが1年で退職し、第二新卒として2007年4月にエー・ピーカンバニーに入社。塚田農場の店長で実績を積み重ね、2011年取締役営業本部長、2012年常務取締役営業本部長となり、東証マザーズ上場、東証一部への市場変更を経験する。2014年に30歳で取締役副社長に就任した。2018年に退職し、同年7月に株式会社ミナデインを設立。現在は『烏森百薬』『烏森絶メシ食堂』(東京・港区新橋)、『里山transit』(千葉・佐倉市ユーカリが丘)などを経営し、独自の経営モデルは「ガイアの夜明け」(テレビ東京系)で紹介される。著書に『バイトを大事にする飲食店は必ず繁盛する』(幻冬舎)。

この記事は役に立ちましたか?
はい いいえ

Pocket
follow us in feedly
飲食店ドットコム通信のメール購読はこちらから(会員登録/無料)
飲食店ドットコム ジャーナルの新着記事をお知らせします(毎週3回配信)
松田 隆

ライター: 松田 隆

青山学院大学大学院法務研究科卒業。ジャーナリスト。スポーツ新聞社に29年余在籍後にフリーランスに。「GPS捜査に関する最高裁大法廷判決の影響」、「台東区のハラール認証取得支援と政教分離問題」等(弁護士ドットコム)のほか、月刊『Voice』(PHP研究所)など雑誌媒体でも執筆。ニュース&オピニオンサイト「令和電子瓦版」を主宰:https://reiwa-kawaraban.com/