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富山『レヴォ』谷口英司シェフの新たな挑戦。利賀村へ移転も「すべてが僕らの武器」

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新しい厨房に立つ谷口英司さん

富山に、ここを目指して日本全国からゲストが集まるフランス料理店がある。店の名前は『レヴォ』。シェフの谷口英司さんが、富山市の宿泊施設内にあった同店を移転させたのは2020年12月のこと。

移転先は南砺市利賀村。富山県内のなかでも1,000メートル級の山々に囲まれた山間地域である。すでに一つ星を得ていたにもかかわらず、アクセスが以前よりも格段に難しい今の場所に店を移転したのはなぜか、利賀村に来て変わったこと、また、今後どのように料理を作っていきたいかなどを谷口さんに聞いた。

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衝撃を受けた「お母さんが作るクマのお吸い物」

「このあたりは、以前から何度か来ていてよく知っていました。山菜が採れるんですよ。以前から富山県内をあちこち出歩いていたなかで、最も良い山菜が採れるなと思っていたのがこのあたりでした」

南砺市は富山県南西部。石川県に県境を接する位置にあり、砺波平野の南部と、五箇山を中心とした山岳部で構成される。そのなかでも利賀村は、世界文化遺産「白川郷・五箇山の合掌造り集落」に近く、アクセスの難しさから富山県内でも秘境と呼ばれるほどの、山ふところにいだかれた場所だ。

「山菜採りに来ていたとき、近所の家庭のお母さんから料理をふるまってもらいました。そこで出してくれる料理がどれも美味しかったんですよ、本当に。このあたりは冬の雪が深いので、保存食が発達しています。みんなそれらを上手に使って料理している。あるときクマのお吸い物を出してもらったことがあって。あの美味しさは衝撃的でした。近所の猟師さんからクマの肉を買ってるんだそうです。あれが忘れられないですね。移転するにあたって富山県内でいくつか候補地があったんですけど、そんなこともあって最終的にここに決めました」

『レヴォ』は、利賀川を望む約7,500平方メートルの敷地に、レストラン棟を中心としてコテージやサウナ棟など計6棟、かつてこの地にあった集落をイメージして配置された。レストランには肉の熟成庫のほかに、パン焼き小屋や自家菜園も備えている。

「好き放題やりたかったんですよ、店を。本当に自分の思う通りにやりたかった。以前の場所は環境としてとても恵まれた場所でしたが、宿泊施設内のレストランだということもあって、やはりどうしても色々と制約がありました。それと、言い方は変ですけど、自分で借金してお店を建てたかった」

新しい厨房で盛り付けを行う谷口さん(写真中央)

料理のすべてを変えた利賀村の水

谷口さんは大阪出身。日本国内やフランスの三つ星店で修業、富山市に『レヴォ』をオープンさせたのは2014年のこと。2016年にミシュラン一つ星を獲得。2017年には、ミシュランと並び称されるグルメガイドブック「ゴ・エ・ミヨ」日本版で、最高賞である「今年のシェフ賞」を受賞した。2017年は「ゴ・エ・ミヨ」が日本版の刊行を始めた年で、谷口さんは日本版で1人目の「今年のシェフ賞」だ。それだけの評価をいったんリセットするような『レヴォ』の利賀村への移転の発表は、人々を驚かせた。実際に移転したことで、料理について、また、料理人として生きることも含めて、谷口さんやスタッフにとってどんなことが変わったのだろうか。

「以前とここ利賀村との環境は本当に全然違います。前の店と今の店の距離は20kmほどだと思いますけど、本当に全然違う。料理するうえで最も違うのが水です。まず水質が違う。近くの谷川の水をろ過して使っています。料理の味が全く変わりました。水道水だとこの味は出せないですね。水が良いのがすべてです」

料理を作るうえで根幹となるのが水だ。水そのものの味が良いのはもちろん、魚を生かしておくときにここの水に入れておくと、なぜか魚が長く生きているのだという。水が変わったことの利点はほかにもある。

「ここは標高が高くて、以前とおそらく500~600m違うと思います。なので水の沸点が低い。ここでは80度後半で湯が沸きます。野菜がやわらかくなるのが早くて、ブイヨンの水分も入っていきやすいですね。それで逆に苦労したのが朝食に出す白ご飯。火力がなかなかうまく調整できませんでした」

標高が高く、山岳地であるという地理的条件が料理やレストランを運営していくうえでもたらしたものは、デメリットよりメリットのほうが大きかったようだ。

「漁港にはここから毎日通っています。以前より漁港までの距離は遠くなって45kmくらい。コースメニューを見てもらうとわかりますが、僕はここに来てもホタルイカとか水蛸とか、けっこう魚介類を使ってます。昔と違って車があれば、ここからでも毎日漁港に通えるわけだから、ここでも山の食材だけにこだわらず、さらに、海の食材を山で調理していくことの可能性も探っていきたい。たとえば、魚を潮風で干すのではなく、ここの山風で干すとどんな味になるんだろうとか。それって、ここならではの料理になると思いませんか」

「L‘evo鶏」。皿は釋永岳さんのもの。谷口さんが店を移転するにあたって、釋永さんが新しい『レヴォ』の敷地から土を採取して焼き上げた、ここだけの皿。利賀村の自然の荒々しさを映し出しているようだ

移転後の料理メニュー名を見てみると、料理構成そのものは一見、あまり変わっていないように見える。以前からスペシャリテだった「L‘evo鶏」も健在だ。しかし実際は、利賀村という地域性をより強く意識させるものとなっているようだ。

「以前は牛肉をメニューに入れてほしいというような要望もあったんですけど、ここに来たからには、特に肉料理は『L‘evo鶏』以外は全部ジビエでやりたいし、やってます。ジビエならではの苦労、もちろんあります。クマって、味の個体差がすごく大きいんですよ。シカやイノシシよりもずっと大きい。そして、ジビエだから一定量を定期的に仕入れるようなことはできません。だから肉の熟成庫はどうしても作りたかった施設のひとつです」

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うずら

About うずら

編集者兼ライター。出版社勤務のかたわらアジアやヨーロッパなど海外のレストランを訪問。ブログ「モダスパ+plus」ではそのときの報告や「ミシュラン」「ゴ・エ・ミヨ」などの解説記事を執筆。Instagram(@photo_cuisinier)では、シェフなど飲食に携わる人のポートレートを撮影している。