ビールの「テイクアウト」がコロナ禍の武器に。下北沢『TAP&GROWLER』の戦略
コロナ禍で市民に外出や外食の自粛が強いられる中、多くの飲食店が苦肉の策として始めたテイクアウト。感染拡大から1年あまり経った現在は、消費者の行動様式の一つとして定着している。
そんな中、ビールのテイクアウトで大成功を収めたのが、ビアバー『TAP&GROWLER(タップアンドグロウラー)』だ。2018年の開店当初からクラフトビールのテイクアウトを“売り”にファンを獲得。まだ誰も挑戦していなかった業態にいち早く取り組み、その道の元祖としてのポジションを築いたことで、コロナ禍の逆風を追い風に変えてきた。
この「独自性」はどのように生まれたのか、そして『TAP&GROWLER』が支持される理由とは? 同店を運営する株式会社ドミンゴの代表取締役・金井圭司氏に話を聞いた。
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日本では珍しい「クラフトビールの量り売り」をいち早く導入
金井氏の経歴は、バックパッカー、広告制作会社勤務、シェアハウス事業の経営と、飲食店経営者としては異色と言えるかもしれない。飲食業未経験にもかかわらずビアバーをオープンした理由は、「単純にビールが大好きだから」。将来的にブルワリー(ビール醸造所)の立ち上げを目指しつつ、そこで作ったオリジナルビールの販売チャネルにすることを見越して、下北沢に『TAP&GROWLER』を開店した。
日本ではまだ珍しいビールの量り売りだが、アメリカなど他国ではごく一般的な文化として知られている。金井氏はそこに勝機を見出し、『TAP&GROWLER』を店内だけでなく自宅でもクラフトビールを楽しめる店とした。
狙いは的中。『TAP&GROWLER』はクラフトビールファンやお酒好きの近隣住民の心を掴み、瞬く間に人気店へと上り詰めた。
『TAP&GROWLER』のテイクアウトは、「グロウラー」と呼ばれる瓶にビールを詰めて持ち帰るスタイルだ。瓶詰めには専用の充填機を使用。瓶内を窒素と二酸化炭素で充填してからビールを入れるため、サーバーから直接注いだときに起こる中身の酸化を防げる。また、圧力をかけながららせん状にビールを詰めることで、泡立ちを抑え、家で開けたときに「入れたて」の美味しさが楽しめるよう工夫した。
グロウラーは専用のキャップ付きで、水で洗えば何回でもリユースできる。サイズは32オンス(0.9リットル)、64オンス(1.8リットル)の2種類。テイクアウトの初回はビール代のほかにグロウラー代(32オンス=1,750円、64オンス=2,220円)がかかるが、2回目以降はビール代のみで購入できる。店頭で味わうのと変わらない美味しさを保ったビールをたっぷり持ち帰れるとあれば、地元の呑兵衛が足しげく通うのも納得だろう。
土地柄に合わせ、渋谷店ではアルミ缶でのテイクアウトに挑戦
2020年11月には、2号店の『TAP&CROWLER(タップアンドクラウラー)』を渋谷にオープン。コロナ禍のさなかにオープンすることに不安がないわけではなかったというが、「飲食店なんていつやっても大変だし、不安は付き物。とりあえずやってみよう」との思いで開店に踏み切った。
「クラウラー」とは、アルミ缶を閉じる機械のこと。店名の通り、『TAP&CROWLER』はビールを瓶ではなく、アルミ缶に入れてテイクアウトするスタイルだ。
「同じ店が2つあっても面白くないでしょ(笑)。それに、下北沢と渋谷ではニーズが全然違うんです。下北沢のお客様は周辺に住んでいる方が多いんで、リユースできる“通い瓶”での提供がベスト。でも、渋谷は住んでいる人より遊びに来ている人の方が多いから、通い瓶よりも使いきれるアルミ缶の方が合っているなと感じました」
ここでも、他店との差別化を強く意識している。あえて一般的ではない方法に取り組むことで、厳しいwithコロナ時代を生き抜ける“キャラ立ちした店”をつくり上げた。