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売上8割減を打破! 人気ハンバーガー店『ICON』がコロナ禍で導き出した新たな経営戦略

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席の間隔を空けるなど、ニューノーマルを意識した店内

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移転したことでテイクアウト・デリバリーも拡大

ピンときた片寄さんはすぐに契約。新店舗の設備は全て新品で揃えた。もともとは中古設備を探していたが、現在の物件に合うものがすぐには見つからず「仕方なく」と苦笑いする。希望するサイズの商品こそなかったものの、中古設備は「新品に近いようなものが従来より安く売られていた」そうだ。新たに店舗を構える人にとっては嬉しい情報だが、その背景にあるものを考えると胸が痛む。

「設備に加えて、想像以上に掛かってしまったのは工事費。物件自体がスケルトンだったのと、もともと住居用の物件だったため、ガス管や水道管の掘り起こしなどが必要に。かなり大規模な工事になってしまったので、近所の方に事前にご挨拶をしてから工事を始めました」

内装業者は不動産屋から紹介してもらった。内装でこだわったのはニューノーマルに合わせた店舗づくり。カウンター席は密着しないよう適度なスペースを空け、テーブル席もゆったりと余裕を持たせた。

「カウンターを中心とした内装にしたことで回転が良くなり、以前よりお客様にお待ちいただく時間が少なくなりました。キッチンの設備も大きくなり、一度に作れる数も増え、テイクアウトやデリバリーにも対応できるように。また、一部の壁紙は店で知り合ったアーティストさんに描いてもらったものを使っています。もともと以前の店舗で壁紙として使おうといただいたものなのですが今回の移転でやっと実現しました」

『ICON』跡地に姉妹店『LAYER』をオープン

コロナ禍でも“攻め”のチャレンジ

ここからが彼のすごいところだ。以前の店舗は売却せず「空いた店舗を使って何かできないか」と考えを巡らすようになる。

「もともと好条件で借りていた物件だったので“もったいないな”と感じていたところもありました。空けるにもスケルトンに戻すのが条件のため、コストが掛かってしまう。だから、僕自身が好きだったシナモンロールの店をやろうかなと考えたいたんです。そんなとき、移転の際に行ったクラウドファンディングのリターン商品の打ち合わせで来てくれた方が、じつはもともとパティシエなんですよ、という話をされていて。しかもちょうど仕事(前職)を辞めると言っていたので、『それなら一緒に何かやりませんか?』と思わず声をかけてしまいました」

運命的に出会った仲間を店長に立て、2021年7月、『ICON』跡地に姉妹店として新店舗をオープンさせる。その中身は、シナモンロール屋ではなく、テイクアウト中心のミートパイ専門店『LAYER』。デザインソフトでも使う言葉なのが、デザイナーでもある彼らしいが、“層になる”という意味も持つ。

「ミートパイは生地が層になってできるものです。店名はそこからヒントを得ました。この店舗を作るにあたって、本当にいろいろな偶然が重なりました。彼(現店長)との雑談の中で話題に上がったのがパイだったのですが、『ICON』で出る牛すじを使ってミートパイが作れるし、甘いパイなどバリエーションもできそうだね……という話になって、すぐに試作に取り掛かることに。ミートパイ自体はあまり日本で馴染みのないものかもしれませんが、試作を経て、想像以上に手ごたえを感じました。『ICON』を知っているお客様にも満足いただけるようなフルーツを軸にした少し変わったミートパイなどもラインナップして、どちらのお店も楽しんでもらえるよう、連携した運営にしようと」

『LAYER』で提供しているミートパイ

『LAYER』は手ごろな価格も魅力だ。ミートパイだけではなく、スコーンロールやスイーツなどの商品を300円台から用意。着実に業績をアップさせている。

「飲食店は国や都の方針に従って耐えることしかできない。でも愚痴をこぼしているだけでは現状は変わらない。コロナ前の状況に戻ることは、僕は正直、難しいと思うんです。なるようにしかならないと思うので、だったら自分の武器を磨きながら、今の状況に合わせて変わっていくしかないのかなと」

そう話していく中で「個人で始めた小さな店ですから。コロナ禍だからこそできることをしていくしかない」と腹をくくったかのように顔を上げた片寄さん。この柔軟な姿勢と諦めずに挑戦を続ける心こそが、コロナ禍を勝ち抜く秘訣なのかもしれない。

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逆井マリ

ライター: 逆井マリ

フリーライター。音楽、アニメ、ゲーム、グルメ、カルチャー媒体などに取材記事を執筆。現在の仕事に就く前に、創作居酒屋、イタリアン料理店での業務経験あり。写真は大好きなアイスランドで撮影したもの。