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横浜「上大岡」のリアル事情。飲食店がコロナ禍で感じた「地元民の温かさ」

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『LOTUS』の店内

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コロナ禍における混乱

2店舗目の出店となった『LOTUS』は『cove』と同時期にオープン。縁があって、もともとラウンジがあった場所を借りることができた。その後、『LOTUS』からほど近い場所に『スペインバル ソルイルナ』も開いた。

さらにもう1店舗、上大岡駅の繁華街側に肉バル×ラクレットチーズの店をオープンした。しかしコロナ禍がはじまったときに「これはもう手持ちのお金だと持たない」と、助成金を受け取ることなく店舗をすぐに解約、閉店させた。

「このままだとみんなに迷惑をかけてしまうと思って。当時の店長とも話し合って1店舗は解約することにした。コロナの拡大のスピードが早く、売上も激減していた。正直どうしていいか分からないという状況だったけど、緊急事態宣言中も常連のお客様が気を使って遊びに来てくれたことがありがたかった。もともと『Nine Miles』も『LOTUS』も営業時間が遅めだから、時短になってしまうと売上的には厳しい。でも想定以上に来ていただいた。『LOTUS』には『cove』に寄ってから来るという人が多かったかな」

コロナ禍ならではの工夫はあったのだろうか?

「一時期テイクアウトをしていたけど、できればお店で美味しいものを食べてもらいたいという思いがあるから、積極的にはやってなかった。だから特別なことはやってない。一時期、街の光が消えてしまって、パタッと人がいなくなってしまったことがあった。仕方がないこととは言えちょっと寂しかったな」

『LOTUS』の店内

大切なのは「人」

現在上大岡エリアで3店舗を経営している中山さん。コンセプトは異なるものの、一貫しているのは「ユニティを大切にしている」こと。だからこそ若手育成にも力を入れている。

「最後は結局“人”。だからこそ、若手の成長はうれしいし、会社の財産だと思っている。いずれ彼らが成長して、自分のお店を持ったら応援したい。また、こういう場所に来る人の中には、クリエイティブな思考を持った人が多くて。夢は持ってるけどなかなか本職にはできない人もいる。そういう人たちと楽しく何かできたらなと思う」

そのうちの一つの取り組みとして、昨年から会社のアパレルラインの「jami jami -ジャミジャミ-」をはじめた。デザイナーの名前はあえて公表されていないが、『Nine Miles』の元店員であり、現在は世界を舞台に活躍している人物だ。

「コロナ禍で良くも悪くも時間ができたから、会社のアパレルラインをはじめてみようと思った。以前、『Nine Miles』で働いていたフリーのデザイナーに声をかけてスタートすることに。全店舗の看板や名刺もデザインしてもらっていて、今回のアパレルライン『jami jami -ジャミジャミ-』のコンセプトとイメージを伝え、デザインしてもらった」

現在、トレーナーやTシャツをECサイト、及び店内で販売している。大々的に宣伝は打たなかったものの、売れ行きは好調のようだ。

「お客様に本当に感謝。アパレルラインも軌道に乗せなきゃと思ってるんだけど、マイペースに楽しんでいきたいなと」

「jami jami -ジャミジャミ-」のアイテム

二人が共通して話していたのが「上大岡は面白い街」「温かな人が多い」ということ。中山さんは上大岡を「池袋に近いかもしれない」と話していたが、小玉さんは「田舎と都会のちょうど真ん中というイメージ。『どんな街ですか?』って聞かれると、正直なんて答えていいか分からない(笑)。とにかく、優しくて寛容な人が多い街」だと語った。

そして、もう一つ共通していたのが、二人とも人とのつながりを大切にし、客と誠実に向き合っている点だ。遡れば、上大岡という街自体が、関東大震災(大正12年)や大雨による水害被害(昭和36年ほか)などに大きな影響を受けながらも、地元住民の力で街を発展・変貌させていった歴史を持つ。中山さんの「最後は結局“人”」という言葉通り、人の持つ力が上大岡の飲食店を支えたのだろう。

人と人との繋がりで、その歴史を作ってきた上大岡。上大岡の発展はこれからも続く。

※参考:『上大岡・歴史よもやま話』(こうなん歴史ブックレット)、『THE・再開発 横浜市上大岡の記録』(上大岡駅前再開発協議会記録事業委員会)

小玉隆史(こだま・たかふみ)
1974年、東京生まれ。親の仕事で幼少時は広島、中学からは横浜で過ごす。大学卒業後は輸入食材メインのスーパーに勤務。その後、飲食業に転職し、都内や野毛で修行を重ねる。2008年に立ち呑みスタイルの店『cove』を横浜上大岡にオープン。

中山裕康(なかやま・ひろやす)
1971年和歌山県生まれ。株式会社サンズカート代表。高校卒業後上京し、東京の居酒屋やデリ業態に勤務。27歳の時に、横浜のバーで勤務中に刺激を受け、30歳で自分の店を持つと決意。2002年『bar&grill ナインマイルズ』、2008年に『cafebar ロータス』、2014年に『スペインバル ソルイルナ』、2018年に『肉バル×ラクレットチーズ サンズキッチン』(2020年閉店、ロータスに業態移行)をオープンし、2021年にはアパレルライン「jami jami -ジャミジャミ-」の販売を開始する。

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逆井マリ

ライター: 逆井マリ

フリーライター。音楽、アニメ、ゲーム、グルメ、カルチャー媒体などに取材記事を執筆。現在の仕事に就く前に、創作居酒屋、イタリアン料理店での業務経験あり。写真は大好きなアイスランドで撮影したもの。