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「サービスが先、儲けは後」を真髄に19坪で月商780万円。激戦区で『居酒屋 ホドケバ』が守るもの

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ふわっとなめらかなムースをはちみつとバケットで。ワインが止まらない『ゴルゴンゾーラのムース』(550円)

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目先の利益よりも、店の未来。「本当はオムレツだって100円で売りたい」

しかし料理もドリンクもほぼ全部1品(1杯)500円前後。「コスパ最高で良心的!」とSNSやネットの口コミでも大好評だが、安すぎでは?

「スタッフとはしょっちゅうケンカです(笑)。でも僕の意見は『サービスが先、売上や利益は後』。今は550〜650円のオムレツやハムエッグだって、本当は100円で出したい。お客さんはスーパーが卵一個をいくらで売るか知っているわけで、『オムレツを100円で出してくれる!』と喜んでもらえれば、売上は必ず後からついて来る。飲食店はまず、お客さんが来ないと始まらないんです」

澤出氏は自身の商売の原点について「若い頃過ごした大阪で叩き込まれましたね」と振り返る。1973年生まれの49歳、東京・武蔵小金井市の出身。澤出氏曰く「学校もろくに行かず、きちんと勤めたこともなくプラプラしていた」そうだが、24歳の時「大阪でカフェを始める」という先輩に誘われ、飲食の道へ進んだ。

しかし大阪ではその先輩と仲違いし、4年で東京に戻る。知人がいた葉山でイベントを手伝いフリーターを続けるが、現実に直面し35歳で改心。新橋を中心に勢いを伸ばしていた海鮮居酒屋『根室食堂』に入り、一心不乱に働いて3年間で開業資金400万円を貯めた。38歳で独立し、土地勘のあった学芸大学で『アオギリ』の営業を始めたが、軌道に乗るまでの2年間は、資金調達が進まない、集客ができない、一緒に店を始めた後輩が去るなどの紆余曲折があったという。

「20代で大阪へ行った時は、衝突して帰って来てしまいましたが、やっぱりあの街や人は魅力的で。根室食堂に入る前に大阪に戻って、新たに人と出会ったり、軽トラで滋賀や神戸まで回り焼き芋を売ったりしたこともあります。大阪では『コスパ重視』の商人魂を、焼き芋屋時代には『富裕層だって安くて美味しいものを選ぶ』ことを学びました」

現在も迷うと大阪に立ち寄る。たびたびスタッフも連れてミナミや新世界、西成で食べ歩き、「こういう商売をしたい」と伝えているそう。

店長の黒政裕太氏(左)ほか、20〜30代の若いスタッフが布陣

そして今は、学芸大学に4店舗目の出店準備中だ。澤出氏曰く、「いける限り何店舗でも、永遠に出し続けたい」とのこと。

「1店目のアオギリを軌道に乗せるまでは本当に苦労しました。今もスタッフ間の調整や人の気持ちがつかめず悩みも多いですが、3店目のホドケバを出してから会社も自分の人生も、展開が変わりました。飲食業界で働く若い世代には、希望や光を持ち続けてほしい。また長く働き続けてくれているスタッフや、子育てを終えて社会に戻った人たちが50代、60代でも活躍できる場所をうちが作りたい。そのために僕ができるのは、店舗を増やし、組織を盤石にすることしかないと思っています」

常にこうした展望を考えているという澤出氏は、自らを「根っからの『飲食人』なんです」と言って笑う。これから描かれる飲食業界の明るい未来を、共に見続けていきたい。

『居酒屋 ホドケバ』
住所/東京都目黒区鷹番3-3-19 鷹番ビル2F
電話番号/03-6303-1140
営業時間/19:00~翌2:00(不定期で土12:00〜L.O.14:00のみランチ提供)
定休日/なし
席数/38

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浅野陽子

ライター: 浅野陽子

フードライター、食限定の取材歴は20年超。青山学院大学国際政治経済学部卒、出版社2社を経て独立。ミシュランから居酒屋、国内外の生産地や漁港まで回る。『日経MJ』『AERA』『dancyu』『おとなの週末』ほか多数執筆。仕事術をまとめた著書『フードライターになろう!』(青弓社)を2022年12月に刊行予定。