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創業43年『たん焼き 忍』がファンに愛される理由。女将「私は人が好きなだけ」

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『たん焼き 忍』の女将さんであり、看板娘でもある上杉忍さん

「はい、忍でございます」。電話が鳴るたびに応対するのは、『たん焼き 忍』(新宿区四谷/以下、『忍』)の上杉忍さんだ。客や従業員から「女将」「女将さん」「ママ」と呼ばれて慕われている。

昭和54(1979)年の創業当初から通うファンも多く、親子3代で常連になった客もいれば、小さい子どもを連れて『忍』名物の牛タンを食べに来る家族もいる。コロナ前の2019年8月には、創業40周年を祝うパーティーが都内のホテルで開かれた。

「800名ほどのお客様が参加してくれました。創業時から常連客の山田邦子さん(タレント)に司会をしていただき、やはり常連客の風間杜夫さん(俳優)が祝賀の挨拶をしてくださいました」(上杉忍さん)

なぜ『忍』はファンが多いのか。人気の秘密を忍さんに尋ねた。

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17時の開店と同時にカウンターとテーブルが埋まり始め、30分後には全45席がほぼ満席になった

客への目配りと気配りが忍さんの魅力

「なぜと聞かれてもねえ……」。忍さんは困惑顔で答えた。

「ひとつあるとすれば、お客様の顔を忘れないようにしていることかも。努力しているわけでもないし、普通にしてきたことなんですけど」

勤続20年以上の女性スタッフによれば、「ママは記憶力がいい」と称賛する。一人客には忍さんが進んで声を掛けるようにしてきた。昭和54年の開業以来、入院した日以外は欠かさず店に立ってきた。それを「あたりまえ」と思って続けてきたというのである。

しかし、人気の秘密は忍さんの記憶力や心掛けだけでもないようだ。創業当初の20代前半から通っている男性客は、「女将さんに惹かれて足を運んでいる」と告白する。生涯の伴侶となる「彼女を口説いたのもこの店」だった。『忍』の歴史と共に人生を歩んできた客も少なくない。

「女将さんは店のどこに誰が座っているのかを把握しているし、臨機応変で瞬時に采配できます。それが女将さんの魅力」(男性客)

忍さん自身、客への目配りを心掛けてきたし、従業員にもそれを要求しているという。たとえば、取材時にこんなことがあった。忍さんの取材中、17時の開店と同時に従業員がBGMをかけた。取材班と忍さんが対座するテーブルの真上にスピーカーがあったことから、スタッフに「話をしているから少しボリュームを下げて」と声をかけた。些細なことかもしれないが、忍さんは気配りの人だという印象を受けた瞬間だった。

たんシチュー、ゆでたん、たん焼きが『忍』の名物料理だ。このほか、たんとこんにゃくを味噌で煮込んだどて煮も人気

こんなこともあった。名物の牛タン料理3品を食べたあとどて煮を頼んだら、「大根煮もいかがですか。うちのはおでん屋さんのよりも美味しいんですよ」と忍さんがすすめてくれた。料理を全員で味見しているので、自分が美味しいと思う料理を客にすすめるように心がけているのだそうだ。

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中島茂信

ライター: 中島茂信

CM制作会社を経てライターに。主な著書に『平翠軒のうまいもの帳』『101本の万年筆』『瞳さんと』『一流シェフの味を10分で作る!男の料理』『自家菜園のあるレストラン』。『笠原将弘のおやつまみ』の企画編集を担当。「dancyu web」や「ヒトサラ」、「macaroni」などで執筆中。