創業43年『たん焼き 忍』がファンに愛される理由。女将「私は人が好きなだけ」

民家の梁として使われていた欅(ケヤキ)を柱に用いた、古民家風の落ち着いた店内。テーブルやカウンターにも木材を使用
従業員を愛情込めて「うちの子たち」と呼んでいる
忍さんのホスピタリティは天賦の才なのかもしれないが、前職の経験も活かされているように思える。高校卒業後、銀行に就職。歌舞伎町支店に配属された。出納係を3か月経験した後、3年間窓口を担当。そのとき歌舞伎町にあった洋食屋のオーナーシェフだった徳治郎さんに見初められ、23歳で結婚。洋食屋のホールを任された。飲食業は初めてだったが、3年間培った銀行窓口での経験をホールでの接客に活かした。
その5年後、徳治郎さんが『忍』を開業。じつは当初、『牛たん まるはげ』という屋号だったという。
「ある方に『奥さんの名前をつけるといい』とアドバイスしていただき、開店から3か月後、『たん焼き 忍』の看板を掲げました」
昼は洋食屋で働き、夜は『忍』に立った。当初従業員はアルバイトの女性ひとりだった。数年後、新聞に紹介されたことがきっかけで徐々に客が増え、従業員も増えていった。現在、徳治郎さんは朝の仕込みこそするが、営業は忍さんと9名の従業員に一任している。
忍さんは従業員を「うちの子たち」と呼ぶ。開店の30分前、「うちの子たち」全員の前で夕礼をするのが、忍さんの日課だ。
コロナ禍で半年間休業を余儀なくされた。その間、従業員が交代で店を掃除したり、換気をしてくれた。テーブルやカウンター、椅子が木製なので、掃除をしないとカビだらけになってしまうからだ。
「勤続15年の店長とチーフを中心に、全員が店を守ってくれています。素晴らしい子たちです」

開店直前、忍さんを囲み夕礼が行われる。この日は電話で予約を受けた際の対応について再確認した
