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坪月商52万円を誇る水道橋『スタンドヒーロー』。2度の挫折を糧に「立ち飲み界のヒーロー」に

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現在のフードのグランドメニュー。主力商品の串揚げは税抜き80~380円(88~418円)の価格帯で魚介類、肉類など27品をラインアップし、そこに一品料理6品を加える

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酒場メニューに不向きだった品質劣化が早い串天ぷら

また、串天ぷらも立ち飲み酒場に向かない商材だったという。

「天ぷらは品質劣化が早い料理なんです。揚げてすぐに食べていただかないと衣が水分を吸ってふやけてしまいますが、呑んでいるお客様は提供後すぐに食べていただけるとは限りません。ちょっと考えればわかることだったのですが、コンセプトが先走ってしまい、その欠点に気付くまでに長い時間がかかってしまいました」

そして決定的だったのがスタッフの退職だった。忙しいのに利益が出ない日々が続き、右腕として働いていたスタッフが置き手紙1枚を残していなくなってしまったのだ。

「ショックでしたが、それで目が覚めました。昼の営業をストップし、夜の営業も考え方を改め『お客様が何を求めているか』ということからメニューを見直し、創業から1年が過ぎてようやく今のベースができあがったんです」

串揚げの仕込みをする井上氏。ほとんどの商品について井上氏ひとりで仕入れと仕込みをしている

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2号店は売上好調。ところが、料理長が独立して近隣に居酒屋を開業

『スタンドヒーロー』はメニューを見直してからぐんぐんと業績を伸ばし、繁盛店の仲間入りを果たす。その勢いに乗り、創業5年目の2012年には2号店の『大衆居酒屋ヒーロー 大塚店』を東京・大塚にオープンしたが、井上氏はここで2度目の挫折を味わうことになる。

「2号店はオープン時から売上が好調でした。ところが、店を任せていた料理長が急に『独立したい』と言い出したんです。引き止めても無駄で……。彼が2号店のすぐそばに居酒屋を開業したことには開いた口が塞がりませんでした。代わりに雇った料理長は勤務態度が不真面目で業績も低迷。それでも6年かけてなんとか投資回収を済ますことができ、『さあ、これから』と思っていた矢先に次は店長が独立したいと……」

紆余曲折を経て『大衆居酒屋ヒーロー 大塚店』は2018年に撤退を余儀なくされる。井上氏は「2回の挫折の経験から、ヒトのマネジメントの難しさを痛感し、自分の不得意分野であることを思い知らされました。『店数を増やすのではなく、1店の価値をとことん磨いていく』のが自分に向いているのだと学び、そこに全力を注ぐことを決意しました」と語る。

「串揚げほろ酔いセット」税抜き990円(1,089円)。串揚げの組合せはその日によって変わる。取材日は右からウインナー、さかな大葉、えび、うずら、豚玉ねぎ、鶏チーズ。そこに生ビールを加えて単品注文で計1,310円(1,441円)

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「原価割れにならなければいい」が鮮魚仕入れの基準

前述した通り、『スタンドヒーロー』は創業から1年ほど経ってメニューラインアップの下地が固まったわけだが、井上氏がそこで基本方針としたのが「『安い店』として名の知れた店になること」だ。

フードメニューの柱は串揚げ。税抜き80~200円(88~220円)の価格帯で単品18品を揃える。名物メニューとして投入したのは串揚げほろ酔いセット税抜き990円(1,089円)。計850円前後の串揚げ6本に税抜き300~690円(330~759円)のワンドリンクがセットになったお値打ち品だが、その存在がかすむほどのご奉仕メニューが刺身だ。

写真右から、「カンパチ」税抜き430円(473円)、「金目たい」税抜き480円(528円)、「本まぐろぶつ」税抜き530円(583円)、「〆さば」税抜き390円(429円)

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フロアの天井から吊り下げられた黒板に日替りメニュー35品前後が書き記されており、そのうち刺身は8~10品。価格は税抜き300~500円台と格安というわけではないが、特筆すべきはボリュームで、ぶ厚くカットした刺身が5枚も盛り付けられている。

東京・板橋にある鮮魚店に井上氏が毎日足を運び、そこで刺身用の鮮魚を仕入れている訳だが、その際の基準は「原価割れをしなければいい」とのこと。取材日には「金目たい」税抜き480円(528円)、「本まぐろぶつ」税抜き530円(583円)、「カンパチ」税抜き430円(473円)など破格値の商品を揃えており、「きちんと計算したことはありませんが、刺身のカテゴリー原価率はおそらく60~70%くらいでしょう」と井上氏は説明する。

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栗田利之

ライター: 栗田利之

フリーランスの記者として、15年以上にわたって外食経営誌の記事を執筆。大手、中堅の外食企業や話題の繁盛店などを取材してきた。埼玉県下を中心に店舗網を拡げている「ぎょうざの満洲」が贔屓の外食チェーン。