能登半島地震、輪島で炊き出しを続ける『ラトリエ ドゥ ノト』シェフ池端隼也さんの「今」
今、目の前の食べていない人をなんとかしよう
炊き出し最初の食材は、すべてシェフたちが自分の店から持ち出したものだった。
「壊れた自分の店を見た瞬間、うわあって涙出たんですけど、もう5分後ぐらいには切り替えたというか、開き直ってましたね。今この状況で僕は何したらいいんやろうって。まずスタッフの安否確認して、周りの飲食店の人たちも、安否確認して大丈夫だったのがわかった。店はみんな潰れてますけどね。僕もみんなも、お正月から営業する予定で食材を冷蔵庫にパンパンに持っていたので、それを引っ張り出して、ガスもカセットコンロも用意できるし、とりあえず炊き出ししようとなって、すぐ近くの和食店と、イタリアンの料理人と僕の3人で、2日の夜から炊き出しを始めた。青空炊き出しです。
その頃から少しずつ状況が見えてきて、3日目に、800人~1,000人が避難している避難所がたくさんあるという状況がわかったんです。そのとき手元にはカセットコンロが2つしかなくて、これだと最大800人分かなと見当をつけて食事を作って持って行ったんです。すると、震災当日からずっと何も食べていないという方がたくさんいらっしゃって、何人かのお父さんとか、涙流しながら、『あったかいもん本当助かります』と言ってくれた。能登半島は特殊な場所で、道が国道249号1本しかないんです。それが寸断されていて自衛隊すら入ってこれない状況だったんで、僕らは、とりあえず、今、目の前の食べていない人をなんとかしよう、当分炊き出しをやっていこうと決めました」
炊き出しを始めて外部からの食材が供給されるようになるまでは、近隣の生産者からの食材提供にとても助けられたと池端さんは言う。
「いつも野菜を仕入れている上田農園さんとかでカリフラワーやブロッコリーなどをわけてもらって、あとは干物屋さんが、停電になって冷凍のフグとかダメになってしまう前にと提供してくれたり、最初はあるもので工夫して炊き出しを行っていました。調味料も揃わないから、甘みの代わりにクランベリージュースやコーラを入れたりしてましたね。
今、日々の食材で主にお世話になっているのは、wck(ワールドセントラルキッチン)という米国に本部がある非営利非政府組織です。3日目ぐらいに米田(肇)さん(大阪『HAJIME』シェフ)がこっちにつないでくださって、スタッフが2人ここに直接来られました。調理器具や食材の手配がとても迅速で驚きましたね。彼らと会ったのが4日で、5日には、必要だとお願いしたものが全部、トラックでばーっと来たんですよ。毎日1,000人分以上の炊き出しをコンスタントに作れるようになったのはそれからです」
被災地とサポートのミスマッチを減らすためにできること
現在、被災地では、どのようなサポートが必要とされているのだろうか。
「避難生活者に今必要な食品と、実際に提供される食品にミスマッチがあるのを何とかしたいです。高齢者は、避難生活で体力が落ちているし、血圧も上がるから体に負担が掛からない食事にしないといけない。高齢者でなくても、避難生活当初にカップ麺など味の濃いものが続いたから、今は塩分控えめで栄養があるものが求められているんです。それを考える立場の人が足りないんです。
こんなときこそ美味しいものを食べてほしいと思って、塩がバチッと決まった料理を提供したいという気持ちはわかります。でも今この状況を深く理解すると、それは今じゃないなとわかってほしい。受け入れる側は、まだそういう食事が摂れるコンディションではないんです。善意なのはよくわかってます。だからこそ、僕らもそこをどう折り合いをつけるべきかでいつも悩んでいます。言いづらいけど。
被害が大きい輪島や珠洲へのサポートでなくていいんです。たとえば今なら、金沢とか被害が比較的少なかった地域のホテルなどに避難されている方がたくさんいらっしゃるから、そういう二次避難者たちのサポートとかですね。彼らは滞在費自体は無料ですが、食費は自己負担です。でも、家が潰れて、お金も財産も全部なくなった人にとって、食費が1日500円でも負担に感じると思うんです。二次避難所には中高生も多いから、そういう場所こそ、ラーメンみたいな味の濃いものやシェフが作った美味しいものが絶対喜ばれると思うんです。金沢で炊き出しするのも、輪島の人を助けるのと同じことなんです」
