渋谷『嚔(アチュー)』、坪月商は驚異の75万円。SNS時代に逆行する「アナログ戦略」
デジタルに頼らずに成功する鍵はスタッフの人間力
開業から1年足らずで月商600万円、坪月商75万円を売る店に成長した『嚔(アチュー)』。コンセプトの通り、噂の広がりとともに徐々に認知を獲得して、来客数を増やした結果である。
今や飲食店のSNS運用は当たり前。デジタルツールを味方につけた認知拡大が繁盛店のセオリーになりつつある現代で、あえてそれを避けた『嚔(アチュー)』が着実にファンを増やしたのはなぜだろうか。
「この売上を作れる理由は、スタッフの人間力です。属人性をキーワードとした店づくりなので、ハイレベルな人材しかここに立つことを許していません。センスが良くてスキルが高いスタッフをスタメンに起用しているので、僕ら兄弟は2軍ベンチ待機(笑)、店に立つことが減りました」(弟・康太氏)
同店のスタッフは20代が中心。スタッフ陣の獲得に求人広告はかけておらず、客からの自己応募や紹介などで、二人がいいなと思った人を採用しているという。
共通点をあげれば、みんな素直だということ。自然と客に興味をもって話が聞けて、純粋に感動したり、屈託なく受け入れられたりする。このような人に恵まれるのは、“教育しないことが教育だ”とする、独自の人材育成によるところも大きい。
「よくある、『グラスが空いたらおかわりを聞く』みたいなことは言いません。聞くべきか聞かないほうがいいかは、お客さまの様子を見て自分で判断してほしいから。こういった接客は教わるものではなく、コミュニケーションのセンスや感性だから、僕らが指導することはないですね」(弟・康太氏)
自然体で働ける環境だからこそ、優秀なスタッフたちはより輝く。そんな姿に憧れて、新しい求職者が次々と現れるのも納得だ。もちろん、営業中のことはほぼスタッフに一任しているが、スタッフの芯には砂田兄弟がつくりたい世界観が浸透している。
「“砂田イズム”を、僕ら以上にスタッフがうまく体現していることが、『嚔(アチュー)』が成功した要因だと思います。僕ら二人でやるよりも、ずっといい店になってくれていますよ」(兄・健太氏)
声なき要望を拾う。9品で始めた食事メニューは3倍まで拡充
開店当初は9品だったが、1年間で3倍近くにまで増えたフードメニュー。理由は客からの声なき要望を探った結果だという。
「店で呑んでいるお客さまが、『腹減ったから、近くで牛丼食ってくるわ』と一時退店しまた戻ってくることがあったんです。口では言わないけど、その行動から、食欲を満たすフードメニューもどんどんリリースしたほうが喜ばれるなと思いました」(弟・康太氏)
メニュー開発についてはスタッフ全員で取り組んでいて、日常のラフなやり取りとノリで決まるが、オペレーションには一番のハードルを設けているそう。
「おいしさ、見栄え、原価調整などすべて良くて売れると思っても、オペレーションが悪いから却下されたアイデアは結構あります。なぜならキッチン担当1人、ドリンク担当1人の2人体制の日もあるから。最大客数30人を2人で回して、日に20万円売り上げるって、オペレーションがマジでやばいんですよ」(弟・康太氏)
提供スピードを上げるために、調理工程を分解して再構築する手法を取り入れているそう。たとえばタイのソウルフード「ソムタム」。ソムは酸っぱい、タムは叩くという意味であり、本来は壺に入れた材料を順序よく叩き潰していく料理だが、その場合あまりにも時間がかかりすぎる。
そこで「叩くという行為は食材の組織を破壊すること、そして味を馴染ませること」だと解釈し、予め組織を破壊した食材と合わせダレを和えるレシピに再構築。本来10分かかる調理工程を2分に短縮した。
「現在、ドリンクとフードの割合は売上で言えば7:3。出数で言えば5:5近くまで来ています。立ち呑みでこれだけフードオーダーが取れるということは、つまり飯が旨いってことです」(弟・康太氏)
フードの充実によって、軽く1杯から、しっかり食べて呑んで2〜3時間の滞在まで、さまざまなニーズに合う、より使い勝手のいい店になってきたという。結果的に客単価は3,000〜3,300円と立ち呑み業態の中では高くなり、現在の月商に結びつくわけだ。
