代々木上原『タレーリン』、モダンタイ料理×ワインで大盛況。客単価1万円超でも人を呼ぶ
食材ありきで料理を開発。フレンチの技法と和食の価値観を加えた新感覚タイ料理
シェフに抜擢されたのは、東京・広尾のフランス料理『レストランアラジン』を経験後、代々木上原『Fresh Seafood Bistro SARU』で最年少のシェフに抜擢された、1997年生まれの若手シェフ・渡部氏だ。食材との向き合い方、味を構成する力、さまざまな技法で構築する繊細な味わいと美しさを兼ね備えた料理などトータルの力量が猿田氏に評価された。タイ料理に日本の出汁文化を取り入れるなど、日本人ならではの技法とおもてなしで創造する新感覚のタイ料理=japa-thai(ジャパタイ)cuisineを表現している。
「まずは、料理やサービスのクオリティを高めて安定させることが大切」と考えた猿田氏は、当初既存店舗でも『タレーリン』の宣伝を行わず、料理もアラカルトメニューにして客の反応をうかがった。その後、レストランとしてのクオリティが高まったものの、「タイ料理=グリーンカレー」などという固定観念でオーダーし、提供された料理とのギャップに困惑する客も少なくなかったという。
そんな中、サービススタッフが「おまかせコース」をお客に勧めるようにしたところ、ほとんどの人がコースをオーダーするようになった。そこで思いきってアラカルトを廃止し、コースのみに変更。変更後すぐは客足が一時減ったこともあったというが、徐々にコース料理がお客に定着し、自分たちがやりたかったジャパタイを表現し、お客にも受け入れられるようになった。

高知県宿毛市にある与力水産鮮魚から仕入れたキンメダイや里芋などを、タマリンドやスパイスで味付けしたタイカレー「ゲーンソム」。バスマティライスを日本で栽培できるよう改良したプリンセスサリーの土鍋ご飯と一緒に提供
「旬の食材は一番安価」。国産食材を生産者から直接仕入れるなど、原価を抑える工夫も
コースメニューには松島湾渡り蟹や明石真蛸、北海道ホタテなど、季節の国産食材が並ぶ。「和食を作るイメージでメニューを構成している」と渡部シェフが話す通り、既存のタイ料理店とは異なり、定番メニューを置かず、季節の食材ありきでメニューを構成しているのが『タレーリン』の大きな特徴だ。Rootでは会社として定期的に研修旅行を行っており、その際にシェフが良いと感じた全国各地の生産者から食材を仕入れている。
日本国内におけるタイハーブの生産者も近年徐々に増えてきているそうで、大概の食材が国産で揃えられるという。一部はタイから輸入しているものもあるというが「なければ使わなければいいという考え方です」と渡部シェフ。年間を通じて同じメニューが並ぶ本場のタイ料理を目指すのではなく、あくまでジャパタイを標榜していることがわかる。
国産の旬の食材を使うことは、おいしさの追求だけでなく、もう一つメリットがある。それは、旬の食材は大量に生産が可能なため、仕入れ値が安価であるということだ。魚介類も豊洲市場の仲買を通すのではなく、生産者から仕入れることで原価を抑えることができている。
フードロスを抑える工夫についても「魚介類は傷むのが早いので、仕込む段階で長持ちするように心がけているほか、送料がかかってでもこまめに送ってもらうようにしています」と渡部シェフ。ほかにも安い時期にフルーツを大量に仕入れ、果実サワーのベースを仕込んでおくなどの工夫もある。加えて、アラカルトからコースのみに絞ったことで、予約数から分析して仕込みの量を調整しやすくなり、結果的に食材のロスを減らすことにも成功した。
「固定費、人件費は変わらないので、収益を伸ばすには売上を伸ばすしかありません。そのため、こだわりのノンアルコールドリンクも複数用意し、プレゼンテーションも工夫し、楽しんでもらえるメニューの開発を追求しています」と猿田氏は明かす。
