京都の『SUBA』が渋谷でも大行列。立ち食いそば×ワインの道を拓く『VS』の戦略
渋谷進出にあたり創作要素を強め、限定そばも開発した1階の『SUBA VS』
『SUBA VS』のメニュー開発について鈴木氏は「京都と比べたときに渋谷は、立ち食いそばのいわば本場。普通の味わいより、軽い創作そばの方が良いと考えました。とはいえ個人的に創作し過ぎたものはあまり好きではなくて。いろいろな和食のいろいろなメニューの再構築を心掛けました」と語る。
そもそも京都には駅のホームに立ち食いそば店があるくらいで、『富士そば』などのそばファストチェーンもあまりない。特に若者が親しめるような立ち食いそば店はほとんどなかった。そのため京都の『SUBA』では「肉そば」や野菜天をのせた「かけそば」など、シンプルなそばでもウケが良かったという。
一方の『SUBA VS』では、「国産牛ホルモンと⻩ニラ」(1,300円)、「島根県宍道湖のしじみとマンダリンオイル」(1,100円)など斬新なメニューを複数揃えて挑んだ。その結果、見込みは当たり、想定以上の客足を獲得できている。
「とり天毛沢東スパイス」(1,000円)は渋谷店限定メニュー。とり天そばに湖南省の毛沢東スパイスをたっぷりと振りかけた一品で、見た目のインパクトも抜群だ。産直野菜を使った季節ごとのメニュー開発も心掛けているという。
暖かい季節は冷たいそばメニューもあるが「あくまで立ち食いそば店なのでだしが重要と考えており、ざるではなくかけそばで統一しています」と鈴木氏は話す。
また、渋谷の店舗においてはそば前もできるほか、『VIRTUS』のワインを使用しただし割も提供。「焼酎のだし割があるなら、ワインでだし割をしてもおいしいのではないか?」と中尾氏が思いつき、試してみたところ意外にもおいしかったため、渋谷でもメニュー化したという。
「ワインバー」「ワインショップ」「卸」の三毛作を行う2階『VIRTUS VS』
2階の『VIRTUS VS』は3つの顔を持つ。一つはワインバーおよび角打ちだ。壁一面に並ぶワインディスペンサーには、常時48種類以上のワインが用意されている。お客は1枚550円のコインを購入して、そのコインをディスペンサーに投入してボタンを押すと、規定量のワインが注がれる仕組みだ。バーや角打ちとしてお客に利用してもらうだけでなく、購入前のテイスティング需要も見込んでいる。
また、ディスペンサーの注ぎ口にはそれぞれQRコードが貼られており、お客がスマホで読み込むとワインの情報が表示される。これによりスタッフの接客負荷を下げることができ、混雑時にもスムーズにワイン提供を可能にした。さらに、渋谷店限定で少量からのワイン量り売りにも応じている(別途専用ボトルの購入が必要)。
このようなシステムは『sumi』でも導入していたというが「若い人にワインをもっとイージーに飲んでもらえるようにしたかったから」と中尾氏はその理由を話す。
「ワインの提案はどうしても俗人的なものになってしまいがちです。もちろん我々としてはスタッフのスキル向上にも努めていますが、店員からいちいち説明を受けずに手軽に飲みたい人も少なくないと思います。ディスペンサーを取り入れればコインの料金だけ払ってもらったら、ワインを選んで注いで飲むところまでお客さまだけで完結する。まずはナチュラルワインのハードルを下げて、間口を広くしたかったというのもあります」(中尾)
ディスペンサーにはもう一つのメリットがある。働くスタッフもさまざまな種類のワインを試せるため、スタッフのワイン知識の向上にもつながるのだ。
