脱サラ起業で月商600万円。大井町『大衆酒場こいさご』の呑兵衛店主による名店オマージュ術
綿貫和人氏は外食産業とは無縁の自動車の営業マンだったが、40歳のときに一念発起。2022年7月、『大衆酒場こいさご大井町本店』をオープンした。開業から約半年後には月商600万円を売り上げ、現在も安定した経営を続けている。脱サラして飲食店オーナーに転身する話はよく聞くが、ここまでの成功例は珍しい。飲食業未経験から繁盛店をつくるヒントを得るために、綿貫氏を取材した。
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大衆酒場未開の地・大井町を根城に選ぶ
綿貫氏は「30代半ばから大衆酒場に目覚め、首都圏の酒場を飲み歩いた」と語る、根っからの呑兵衛。『こいさご』が14時開店なのも、会社員時代に昼から飲み歩いた自身の経験に基づく。予約なしの2時間制、1組3名までの入店制限を設けているのは、一人飲みを優先させるため。そして2,300円という驚きの客単価が呼び水となり、連日開店待ちの客が並び、週末の多いときにはフリー客を中心に30人超の行列を生む。全体の7割を占めるリピート客は行列を避けようと平日に通う方が比較的多く、夕方からはビジネスパーソンも加わり、一日約100~130人が押し寄せる。
店から徒歩4分の大井町駅は、JR京浜東北線・東急大井町線・東京臨海高速鉄道りんかい線が乗り入れる相互間の接続駅。さらにすぐ隣には大ターミナル駅の品川駅がある。
「電車の乗り換え利用でにぎわうのが大井町。品川には大きな会社が多く、一人暮らしや単身赴任の方が、うちを普段使いされているようです。週2、3回ご来店される常連客の割合は全体の約半分くらい。週4日以上通ってくれる方も少なくないです」
大井町には幾ばくかの需要があると予想していた綿貫氏。なぜなら、この街で不動産会社経営をしている実弟とコロナ禍が起こる前から一緒によく飲み歩き、土地勘があったからだ。そして、呑兵衛目線であることをひらめく。
「大井町には、東京下町や千葉の船橋、横浜の野毛など郊外にあるような大衆酒場がないと思っていたんですよ。僕が好きな大衆酒場は気軽な価格帯で毎日通いたくなる名店、安くておいしい酒や料理にも感銘を受けました。そういった下町酒場の文化を大井町に持ってきたら面白いなと思ったのが、自分の店をつくったきっかけです」
敬愛してやまない名酒場『増やま』をオマージュ
そこで生かされたのが、酒場巡りとともに車の営業職時代に培った20年のキャリア。エンドユーザー相手に、どうやれば1台何百万円もする高級車を買ってもらえるかを常に考えていた。ディーラーの運営もその一環だ。「ブランディングが大事だし、店舗の見せ方も意識しました。お客さんが喜んでくれそうな要素を実践し、満たしていく感覚を、僕は持っているんじゃないかなと思います。今はそれを飲食店に置き換えただけ、本質的にやっていることは変わらないですよ」と、綿貫氏は事もなげに話す。
まず、18坪の居酒屋居抜き物件の店内レイアウトを変更。元は小上がりが空間の半分を占めていたが、壁と座敷を撤去し、長細いコの字型のカウンター(22席)を中央に配した。テーブル、丸椅子の高さは低めで、背の低い方でもどっしりと座れる。卓上には余計な物を置かず、すっきりフラットな印象に。これらは、綿貫氏がリスペクトする船橋の名店『大衆酒場 増やま 本店』のスタイルだ。
「『増やま』さんへ最初に行ったとき、座った瞬間にめちゃくちゃ良い店だなと思ったんです。席の高さもそうだし、メニュー数がいっぱいあるんですよ。僕、店に行ったらどれを頼むか迷いたいんですよね。店員さんに聞くのは失礼だと思っているので、周りのお客さんが食べている料理を見て、みんなあれを頼んでいるんだと知り、それがメニュー表のどこに載っているのかを探す。ああいう感じが面白いなって思うんです」
大衆酒場愛丸出しで話す綿貫氏。だから『こいさご』のメニュー数も95品に膨らんだ。
「メニュー構成まで『増やま』さんみたいになっちゃいました(笑)。でもそうなっちゃうんですよ、やっぱり好きなので……。ほかにも、大森の『煮込 蔦八』さんやメジャー店だと月島の『岸田屋』さんなど、好きな店があり過ぎて。そういった名店の良いものを自分の店で出せないか、いろいろ融合できないかなとはいつも考えてます」
