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『鶏soba座銀 神楽坂東京本店』が人手不足を解消した特効薬とは? ES向上が繁盛店の土台をつくる!

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店頭にキャッシュレス対応セルフレジ券売機を置き省人化。その分だけ接客や調理に力を入れる

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未経験者を育てる研修制度も大きな投資

もちろん、利益を人件費に回すだけで自然とスタッフが育つ訳ではない。未経験のアルバイトでも、一人前のスタッフとして店内に送り出すための教育システムが要である。

「制服を着た時点から、お客さまの視点では社員もアルバイトも同じ店員です。責任のある業務は社員が行いますが、基本的な調理や接客は一定以上のクオリティを保たなければ、お客さまに満足してもらうどころか“不快感”を与えてしまう恐れがあります」

スタッフ採用後は1〜2時間程度の座学研修と、50〜100時間の現場研修で新人を育て上げているという。ホール、麺場、揚げ場、セカンド(忙しい役割をサポートする中間役)という4つのポジションを担当できるようになるまでマンツーマン体制で研修を行うというのだから、指導スタッフのコストも含め、大きな初期投資と言える。

「アルバイトが働いてくれるのは、大体1年半から2年の想定になります。その中で活躍してもらえるよう、調理は職人技に頼らないオペレーションを組み立てていますが、例えばラーメンの味に直結する『麺場』を任せるようになるまでは相応の時間が必要ですね。スープの温度管理をしながら麺を正確に茹でなくてはいけませんから。それでも半年から1年ほど経験を積めば十分な技術が身につきますよ」

レシピに従いチャーシューを仕込む若手スタッフ。こなれた手つきだがアルバイト歴は4ヶ月という

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接客はマニュアル化しつつ個性も活かす

調理のオペレーションは確立しているが、接客は一筋縄ではいかないと加藤さん。お客は十人十色、それぞれ感動するポイントは異なるため「正解はない」と説明する。

「接客は突き詰めれば終わりがありません。そこで、スタッフには最低限の『お客さまを不快にさせないマニュアル』を徹底的に学んでいただきます。まず笑顔であること、しっかりお客さまのご様子をうかがうこと、ごちそうさまのお声には一斉で感謝の言葉を返すこと、離席するまでバッシングしないことなど……。そうした最低限のマニュアルを実践したうえで『どうすればお客さまを感動させる接客ができるか』を各々が考えなければいけません。自分が接客を受けた時に嬉しかった経験、気がついたことを共有し、みんなで話し合いながら、お客さまそれぞれに気の利いたサービスを提供してほしいと教えています」

接客面での高いハードルは設けられているが、アルバイトたちが眼の前の目標を達成するためのモチベーション確保にも余念はない。6か月に1回、店長と面談などを行い、2〜30項目ある目標リストで達成したものが増えれば、その分だけ時給が上がる評価制度を取り入れている。「評価項目をすべて達成できたら社員と変わらない働きですから『社員ならへんか?』とスカウトする動線にもなっています」と加藤さんは笑う。

大阪と東京を行き来する加藤さん。実弟である店長の加藤直樹さんと店舗運営を担う

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面接を廃止したことで直面した大きな問題

現在ではスタッフの定着率も上がり経営も軌道に乗っているが、何もかもが順調だった訳ではない。東京初出店したばかりの頃には、採用にまつわる大きな失敗もあったという。

「オープニングスタッフだけでも2〜30人は雇用しました。少なくとも、その倍以上は面接をしていると思います。一人あたり30分程度、朝から晩まで面接漬けの期間もありました。そうして、ようやくスタッフを確保できたと思った矢先、半分くらいの方と連絡がとれなくなりまして(笑)。今は売り手市場ですから、もっと良い条件のアルバイトが見つかったのかもしれません。スタッフが確保できない中で開業を迎える可能性まで出てきて、非常に焦りました」

そこで加藤さんは、潔くアルバイトの面接を廃止。まず雇い入れてから、しっかり研修を行うことで人材を確保する方針に決めた。

「どんなお店なのか、どんな仕事内容なのか、どういう人たちが働いているのか、応募者さんは実際に働いてみないことには分からないことが多いです。採用する側も面接だけでは、相手の働きぶりまでは分かりません。それはもう、お互いさまやないですか(笑)。時間かけて面接してもミスマッチは生まれます。それやったら『まず働いてみてください』のスタイルに変えたんですよ」

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佐藤 潮.

ライター: 佐藤 潮.

ミシュラン三つ星店から河原で捕まえた虫の素揚げまで、15年以上いろいろなグルメ記事を制作。酒場系の本を手掛けることも多く、頑固一徹の大将に怒られた経験も豊富だ。現在、Webのディレクターや広告写真の撮影など仕事の幅が広がっているが、やはりグルメ取材が一番楽しいと感じている。