川崎の新店『富治』が初月売上1,500万円を達成! チェーンに勝てる和食居酒屋のつくり方
入念なPR活動で連日100人以上が来店! 売上の立役者は「指南書」
オープン後すぐに大ヒットした要因は、多岐にわたる。PR会社、インフルエンサー・マーケティングなどを活用したメディア、SNS戦略により、3月は食べログのネット予約ランキング・焼鳥部門(川崎エリア)で1位を獲得。また、『魚炉魚炉』のスタッフが「向かいに新店ができたので、この後どうですか」と相互利用を来店者に勧めた結果、二軒目需要も高まった。平日1回転、週末1.3~1.5回転と連日100人以上を呼び込める受け皿の大きさも、月商1,500万円を生んだ要素である。
店内での施策で、とりわけ収益に貢献しているのは、菊池氏が「指南書」と呼ぶ、『富治の楽しみ方』と題したペラ一枚。各客席に配すA3サイズの紙には、「その1」お通し蕎麦前5点盛りから始まり、「その2」焼鳥、「その3」蕎麦出汁おでん……と酒肴のオールスターが続き、最後に〆の「その7」囲み蕎麦を記載。蕎麦屋飲み初心者や一見さんもこれにより、どのメニューをどの順番に頼めばいいのか一目瞭然だ。リピーターがまだ少ない3月は、掲載メニューがこぞって出たという。
「ここに挙げているメニューは、粗利が高く、お客さまの満足度が高い商品と定義づけています。どれもおいしい自信がありつつ、粗利が高いものばかり。お客さまに喜んでもらえて、我々も原価コントロールができるのは、この指南書のおかげです」
良い例が、「その6」蕎麦屋のつまみの「コロッケ煮」。コロッケ単品なら単価を上げづらいが、低原価の卵でとじるひと手間を加えることで、658円の価格設定ができる。同じ「その6」の人気商品「鶏そぼろと半熟卵のポテサラ」も同じ原理で工夫し、768円で提供。見た目のインパクトがある一方、使うのは「鶏肉と卵」なので原価は抑えられている。なお、フードの中心価格帯は税抜き500~600円代、ドリンクを含めたトータル原価率は30%弱である。
オペレーションの効率化も「指南書」戦略にあり
指南書のメリットは、ほかにも。蕎麦居酒屋“あるある”で、蕎麦を〆で食べる前提で酒肴の注文をセーブしたり、逆につまみを食べ過ぎて蕎麦にたどり着けず、不完全燃焼に終わる一定数の客がいるとか。それが積もり重なれば、店の売上にも影響するが、『富治』ではその心配はほぼない。多くの客が、指南書に示された道筋に沿って進むため、つまみから蕎麦までしっかり食べて帰るからだ。その間には税抜き400~500円代が中心価格帯のドリンク数杯も挟む。「想定客単価は4,500~5,000円、実際約4,700円にできているので特に問題ありません」と菊池氏は、あるある論を一蹴した。
オペレーションにおいても、指南書は役立つ。おおよそ注文パターンが決まっているため、スタッフは次に何を準備すればいいのか分かり、客を待たせずに済む。仕込みにおいても、指南書メニューの下準備を多めに行い、効率アップと食材ロスにつながる。「指南書が上手くいったので、他の系列店でも導入しようかと思っています」と、菊池氏は頬を緩める。
仕込みについて補足すると、蕎麦の麺とカエシは、自社で研究開発したレシピをOEM(他社ブランドを製造する業者)へ渡して発注。出汁は店内で引くものの、鯖節、鰹節といった出汁パックの配合、煮出す時間はマニュアル化されているので負担は少ない。
「だから、スタッフ全員が月9日休みを確保できます。1,500万円を売る忙しい店ですけど、シフトも勤務時間もちゃんと守れている。無駄な人件費はかかっていません」




