28歳未満は予約不可! 大人酒場『赤坂 港かっぽれ』が敷く独自ルールの効果とは?
会員制店舗が成功も、“良い店”が世に知られないジレンマを経験
フードのメニュー表に値段を記載しない手法は、会員制の3号店『(惚)オ向イ上ル(おむかいのぼる)』(代官山)から導入した。「好きなものを好きなだけ」をコンセプトとしたアラカルトの逸品料理を少量多皿で楽しむ客と店との間に、値段の齟齬は生まれなかった。15,000~20,000円の客単価ながら、それに見合う満足感を与え、信頼関係を深めたからだ。
そんな常連たちとの会話の中で松永氏は、港区から通う富裕層が多いことに気づき、港区・元麻布へ進出。同じく会員制酒場の4号店『港かっ惚れ』を2023年1月に開いた。ここでも値段記載なしのメニュー表を置き、3号店のコンセプトを踏襲。それが、接待などで散々食べてきたコース料理に辟易していた富裕層を喜ばせた。
「『俺たちは良い店をつくったんだ』と自負した一方、会員制の店だから世に知られていない残念な気持ちもありました。だったら、フリーの人が使える同じ業態の店をつくろうと決心。とはいえ、一般向けの居酒屋で、既存の会員制2軒と同じ規模の店(共に16坪)を出しても意味がないから、50坪の大箱に挑戦しました」
これが自社5店舗目となる『赤坂 港かっぽれ』誕生の経緯である。赤坂を本拠に選んだのは、4号店『港かっ惚れ』の満席時にあふれた会員客を取り込みたかったから。実は『赤坂 港かっぽれ』に併設する形で、20席の個室のみの会員制酒場『禁断ノ活惚レ(きんだんのかっぽれ)』も営む。それぞれ入り口が分かれ、会員制エリアには裏手のエレベーターでしか入れない。大箱だから実現できた、1フロア2店舗営業だ。
お通し代の値引きで潮目が変わり、リピート率アップ
会員制2軒の延長線上で始めた「メニュー価格の記載なし」の成果について松永氏に水を向けると、ややトーンを下げてこう答えた。
「会計時のお客さんの反応を見ると、満足度がイマイチ足りていないと感じました。会員制の店を立て続けにつくり、僕もそっちの感覚に慣れてしまっていたこともあったのですが、初めて来店されるお客さんからしたら、うちの客単価はやはり安くない。売上自体は想定以上でしたけど、このままでは商売は長続きしないだろうと思い、来客数全体の母数となるファンをコツコツ増やす方向性にしようと。そこで開店後1か月半を過ぎてから、単価をちょっとだけ下げました」
具体的にはチャージ料を含むお通し代を割り引いた。それだけでも、これまでとは手ごたえが違った。特にリピートへの跳ね返りが大きく、リピーターの割合は全体の50%まで上昇。「やっぱり金額は大事ですね」と松永氏。ただし、お通し代とはいえ、大箱店にとっては小さな数字ではない。なにせスケルトン契約した50坪の物件は、内装費だけでほぼ1億円! それを収益で回収しなければならないからだ。
「いい食材を使っておいしい料理を出すだけではダメ。単価をしっかり取るためには、『しつらえ』が重要だと思うんです。ただ、実際には『思惑通りの高い単価が取れる』とはいかなかった。日々学びですよね、本当に」
