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名物は100円の鶏焼売も坪月商は125万円! 池袋『岩瀬蒸店』が語る狭小店の力【居酒屋の輪】

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客への声がけは欠かさないテっちゃん。絶妙な距離感で居心地の良さを演出する

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福岡の恩師から学んだ魅せる接客

そもそも「母ちゃんの店を継ぐ気はなかった」と語るテっちゃん。大学を中退し、軽い気持ちで焼肉店のアルバイトをはじめ、段々と飲食業にのめり込んでいった。

「本格的に独立を志したのは、焼肉店で2年ほど働いた後。西新宿にある繁盛店『丸鶏 るいすけ』での経験が大きかったです。さらなる経験を積むため、頼る相手のいない土地で修業をしたいと考えました」

初めての福岡旅行中、年配の大将が楽しそうに働く個人店が多いことに感動。「雰囲気が気質に合っていた」と、その場で引越し先を決めたという。

「柚子香るリッチなスパサラ」(580円)。博多『やまや』の明太子を贅沢に使う

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「福岡でくすぶっていた期間もありましたが、大きな成長の機会を与えてくれたのが『岩瀬串店』のカズさん(大橋智和氏)でした。元々バンドや俳優をしていただけあり、魅せる接客で場を盛り上げる天才。料理に関しては素人だからこそ、変化球的な工夫がすごくて。立ち飲み文化が薄い福岡で突出した存在でしたね。あとはスタッフ全員の熱意もすごかった。店が繁盛する確かなグルーブ感が生まれていました」

日々一生懸命にお客と向き合い、接客と経営、そして“繁盛店のグルーブ感”を学んだテっちゃん。店長に抜擢されてからも、コロナ禍の逆境にも負けず順調に売上を伸ばし続け、店はテレビ番組『カンブリア宮殿』で紹介されるなど、全国的に注目を集めた。

そうした縁から、独立時に『岩瀬』の看板を掲げる許可を得たテっちゃん。「掲げる以上は絶対に適当なことはできない、最もモチベーションが上がる店名でした」と語る。

栄町通りで輝く岩瀬の看板。フォントまで『岩瀬串店』と同様のもの

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もう一人の恩師が教えてくれた料理の心

「福岡での恩師はカズさんだけではありません。料理に対する姿勢を教えてくれたのが『酒と飯 トキシラズ』という客単価7,000円ほどの“居酒屋以上割烹未満”のお店でした。長い時間をかけて大将(讃井真一氏)から料理を学びたかったのですが……」

2021年、当時26歳だったテっちゃん。「35歳までに独立」との目標を掲げていたが、コロナ禍の影響で状況は大きく変わる。

料理修業を始めて2か月、東京で働く母親から「もう店やめようかな。お客さん来ないし」と連絡が入る。「母子家庭でここまで育ててくれた母ちゃんに対し、ここで恩返ししないと一生後悔する」と悩んだ末、東京への帰郷を決めた。

『トキシラズ』の大将には多大な迷惑をかけることになったが、それにも関わらず「技術的にまだ独立できるレベルじゃないから、もう1年残れ」と独立前の準備期間として調理技術を教えてくれたという。

「ほぼマンツーマンで技術を学びました。まかない作りだけでなく、コロナ休業中に料理教室を開いてくれたり、勉強として有名店や酒蔵さんに連れ出してくれたり。福岡の繁盛店はほとんど回れたと思います。当時は貯金が少なかったこともあり、本当に貴重な体験をさせてもらいました。あの1年間の学びがなければ、東京でお店を開いても上手くいかなかったはず。恩師の二人はもちろん、福岡の全てに感謝しています」

福岡での経験が『岩瀬蒸店』の礎に。磨かれたセンスは日本酒の仕入れにも活きる

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名物「鶏焼売」誕生秘話と100円のこだわり

そんな福岡での準備期間中に開発したのが、後に『岩瀬蒸店』の名物となる「鶏焼売」だ。

「きっかけは『トキシラズ』で提供していた茶碗蒸し。そこから蒸し料理をテーマにしたいと思いはじめて。客単価の高いお店は、まだ自分の技術的に難しいため『蒸し器のある立ち飲み屋』にしようと考えつきました」

出汁の取り方から教えてくれた大将の指導。現在のメニューにも息づく

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一方、焼売づくりの指標としたのは、福岡の人気酒場『いしい』だ。

「ふわふわ系の『いしい』さんの焼売に対し、僕が目指したのはジューシー系。それほど複雑なレシピにはならないと高を括っていたのですが、実際には失敗の連続でしたね。鶏挽き肉に使用する部位、玉ねぎを含めた粗さの加減など様々な配合を試しつつ、『トキシラズ』の大将からのアドバイスもあり、時間をかけて完成したのが今のレシピです」

まだ誰にも教えていない黄金比による焼売の餡。それを包み込む極薄の皮は、創業100年を超える老舗製麺所「大成食品」に特注する。

写真右が名物「鶏焼売」(1ヶ100円)。時計回りに「イタリアン(チェダー)」「パクチースパイス」「青唐辛子」「明太大葉」(各種150円)

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創業以来100円で提供する名物だが、国産鶏肉の値上がりから現在の原価率は50%を超えているという。

「安いとお客さんが喜んでくれるので、なかなか値上げに踏み切れません。もちろん、安さが正義とは思っていませんよ。ただ栄通りでやるからには、この価格帯は続けたいんです。手間暇もかかっていますし、僕の勝手な意地でもあるんですが。とはいえ、安い肉に変えて味を落としたくはない。更に原価が上がれば価格転換も考えます」

レギュラーメニューはフード10種、ドリンク20種程度

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料理に原価をかける一方で、利益の7割を占めるのはドリンクだ。とはいえ中心価格帯は430円と、こちらもワンコイン以下。

「レギュラーのドリンクはあえてこだわっていません。そしてFD比率も、ちゃんとは計算していません(笑)。大切にしているのは、パッと出せるオペレーションですね」

ビール、ウイスキー、酎ハイなどはキリンの商品で統一。最も売れ行きが良いのは「陸ハイボール」(430円)、セルフ提供でお客を待たせることなく提供できる「ハートランド(小瓶)」(400円)も人気だが「福岡の『岩瀬串店』と同じ提供価格に揃えていて、こちらも値段が上げにくいのが難点です」とテっちゃんは苦笑する。

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佐藤 潮.

ライター: 佐藤 潮.

ミシュラン三つ星店から河原で捕まえた虫の素揚げまで、15年以上いろいろなグルメ記事を制作。酒場系の本を手掛けることも多く、頑固一徹の大将に怒られた経験も豊富だ。現在、Webのディレクターや広告写真の撮影など仕事の幅が広がっているが、やはりグルメ取材が一番楽しいと感じている。