「まず採用する」から始める育成術。『渋谷きときと』のスタッフが辞めない店づくり
高い報酬と成長機会で定着を促す。社員の年間離職率はわずか約8%
採用の間口を広げる一方で、採用した人材をいかに定着させ、成長を促すかという点にも全力を注いでいる。その根幹をなすのが、業界水準を上回る手厚い待遇だ。
「頑張って働いてくれている人たちには、報酬として還元してあげたいと思っています」(横手氏)
社員には、営業利益が出ていれば、年間で月給の2〜3か月分がインセンティブとして支給される。これは実質的な賞与として機能しており、特に店長などの責任者にはさらに手厚く支払われるという。実際、勤続4年の統括店長クラスの社員には年収900万円を得ている者もいる。
金銭的なインセンティブに加え、独自の福利厚生も充実している。会社の近く(3km圏内)に住む社員には月3〜4万円の家賃手当を支給。また、スキルアップのための「研究費」として月に2〜5万円を支給し、他店の視察や食事を推奨している。これにより、社員は常に新しい情報に触れ、サービスや接客力が磨かれていくという算段だ。
こうした手厚い制度は、社員のエンゲージメントを確実に高めている。その証拠に、年間の離職率は約8%と低い水準だ。
さらに、社員のキャリアパスとして独立支援も行う。物件探しや資金調達、コンセプト作りといった独立に必要なノウハウを会社が全面的にサポート。経理周りなど、個人で独立する際に壁となりがちな部分も会社がフォローすることで、安心して挑戦できる環境を整えている。現在も2名ほど独立志向の社員がいるといい、彼らの自己実現を後押しする構えだ。
グループLINEでアウトプットの練習をして思考の精度を高め、主体性を育む
同社の人材戦略の根底には、横手氏の確固たる哲学がある。それは、「労働環境の改善と報酬の水準を上げて飲食業界に変革を起こす」という理念だ。
この理念を共有し、「同じ志を持つ仲間と、誇りを持てるコミュニティを作る」ことが最終的な目標だと語る。
「スタッフには『東京で一番イケてるめし屋』だと思ってもらい、誇りを持って働いてほしいと願っています」と横手氏は続ける。
この想いは、社員だけでなくアルバイトの育成にも貫かれている。横手氏は、飲食業はビジネススキルが非常に身につく仕事だと考えている。日々異なるお客と接し、売り上げを上げるために何ができるかを考え、スピード感を持って実行する。この経験は、社会に出てからも必ず生きる力になる。
「飲食の仕事を、単なるお金稼ぎの道具にはして欲しくない。社会に出たときに糧になる経験をしてもらって、少しでも能力を生かしてもらいたいですね」(横手氏)
そのための具体的な仕掛けとして、店舗ごとのグループLINEがある。ここでは、日々の営業の振り返りとして、全スタッフに対して売り上げや客数、原価などの数字を公開。その上で営業を振り返る機会を設け、意見を話してもらう。その結果、「もっとこうした方がいい」といった改善提案がアルバイトからも活発に飛び交う。こうしたアウトプットの練習が、思考の精度を高め、主体性を育むと横手氏は考えている。



