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坪月商45万円の渋谷『すき焼き ちかよ』。大手も模倣する元祖“肉だけすき焼き”の差別化戦略

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東京食肉市場で買い付けた特選黒毛和牛を使用。銘柄は日によって異なり、特上はその日にある肉の中で最もすき焼きに合うものを使う

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大手に模倣されたことが自信に

提供するのは「肉のみのすき焼き」という独特の業態だが、藤原氏は、江ノ島店のオープン前から、いつか同じような業態の専門店が登場することを見通していたという。その予想通り、2024年12月には『いきなり!ステーキ』を展開するペッパーフードサービスが国産牛のみを使用したすき焼き専門店をオープン。しかし藤原氏はこれを「いい意味で自信になった」と捉え、2つのポイントで差別化できると考えていた。

「なぜこの店に『すき焼き ちかよ』という名前を付けたかというと、他社が真似しにくいものを持っておきたかったからなんです。その点で、“名前”と“人”はすごくポイントになるなと思っていて。まず人については、オープンして1年以上は僕が毎日現場に立つと決めていました。僕個人が店に立つことで、他社の人材に負ける可能性はゼロだと思ったんですね。僕は営業が得意だし、何よりこのビジネスモデルに愛情がありますから。その上で母親の名前を店名に使い、僕が食べて育ったこの味への思いを現場で伝え続ければ、絶対に負けないという自信がありました」

マニア受けは狙わず“わかりやすさ”を意識

同店で使用する肉は、東京食肉市場で買い付けた特選黒毛和牛のリブロースやサーロイン。メニューは肉の量で選べる3種類で、60gの「【ミニ】すき焼き」(2,270円)、100gの「すき焼き」(2,980円)、140gの「【特上】すき焼き」(3,980円)を揃える。

価格設定は、1人15,000円程度の高級店と1,000~2,000円程度のチェーン店の中間を狙った。「体感として、高級店のすき焼きの15,000円のうち14,000円は肉代だと思っていました。それなら高級店レベルの肉を3,000円程度で提供すれば、その価値はお客様の満足度に繋がるはずだと考えたんです」と藤原氏。この価格帯に競合となる有名店がなかったことも、勝算を高めた。

「僕がマーケティングで大事にしているのは『パッと聞いて思い浮かばなければ、それはブルーオーシャンだ』ということ。たとえば、4,000~5,000円でおいしいすき焼き店と聞かれても、すぐに浮かばないですよね。『ちかよ』のオープン前、渋谷にはこの価格帯のすき焼き店がなかったので、チャンスだと思いました」

ターゲットはあえて絞らず、幅広い層に門戸を開く。「昔、ある方が『5歳と65歳の両方のお客を感動させることができれば、その間の全員が感動する』と言っているインタビュー記事を読んで、めちゃくちゃかっこいいなと思った」と藤原氏。また、同店では味付けは砂糖と醤油のみ、という“わかりやすさ”を大事にしているため、細かいこだわりを持つ“マニア”受けも狙わないのが基本戦略だ。

「マニアの方は『日本酒を入れてほしい』とか『野菜を最初に浸してほしい』などのこだわりがあると思うんです。でも、『ちかよ』では“引き算の美学”をすごく大事にしている。マニアの方を対象にすると、足し算をしていかざるを得なくなるので、ビジネス的にマッチしていないのかなと思いました」

メニューはミニすき焼き、すき焼き、特上すき焼きと3種類をラインアップ。インバウンドのお客が多いため、英語メニューも用意している

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スタッフが焼く“3つのメリット”

同店のすき焼きは、カウンターに置かれた専用の鋳鉄鍋を2つ使い、藤原氏はじめスタッフが目の前で焼き上げるのが特徴だ。

「お客さまに卵を割っていただいて、そこにこちらで焼いたお肉を入れていきます。接客中は『当店は関西風の“焼きすき”というやり方で、最初にお肉だけを焼いて砂糖、醤油ベースで味付けしていきます』という説明から入り、『店名の「ちかよ」は僕の母親の名前で、これは実家の味付けなんです。お店によっては日本酒、昆布だし、あとはみりんなどを使いますが、うちは本当にシンプルです。途中で鍋を変えるのは、油の香りが立ちますし、お肉から水分が出て煮る状態になるのを防ぎ、最後まで焼く香ばしさを楽しんでいただくためなんです』――という具合にトークを広げていきます」

味付けは砂糖と醤油のみ。肉の水分と醤油によって煮る状態になってしまうことを防ぐため、途中で隣の鍋で焼き直す

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スタッフが焼くスタイルは一見非効率に思えるが、あえてこの方式を採用しているのは3つの理由があるという。

「1つ目は、常にベストな焼き具合で提供できること。2つ目は、お客さま任せにしないことで食事のペースが上がり回転率が向上することです。スマホを見ながらの食事で滞在時間が長くなることも防げます。そして3つ目は、ロマン。すき焼きは『人に焼いてもらう贅沢さも含めてすき焼きだ』というのが僕の持論なんです」

ランチタイムは2人、夜は3人のスタッフがカウンター10席を切り盛りする。スタッフに求めるのは、オペレーションスキル以上に人間的な魅力だ。接客によっていかに顧客満足度を上げられるかを重視しているという。

「スタッフには、自分がお客としてお店に行った時に『こんなことをされたら嬉しいな』と思うことをやってもらうように伝えています。たとえば、お子さまが卵を割れなくて困っていたら割ってあげたり、スプーンを落としたら拾ってあげたり……。ただ、これは教育で身につくものでもない。だから採用では、たとえばホームパーティーをする時に『この子なら呼びたい』と思える人を採用する、などの基準で決めています」

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河鰭悠太郎

ライター: 河鰭悠太郎

食とエンタメのフリーライター。業界紙、一般情報誌、エンタメニュース編集部などを経て2017年に独立。現在はフリーランスとして取材、執筆、撮影、校正まで手掛ける。ラーメン取材の経験が豊富で、現在も定期的にラーメン店の仕込みを取材。ラーメンとタイ料理好き。趣味はラーメン作りとムエタイ。