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専業主婦からドムドム社長へ。藤﨑忍の「失敗はただの事象」という逆境突破術

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2017年、ドムドムフードサービスに入社し、2018年に代表取締役社長に就任した藤﨑忍氏

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専業主婦から39歳で『渋谷109』店長に転身し、居酒屋経営を経て、株式会社ドムドムフードサービス代表取締役社長に就任した藤﨑忍氏。多くの人が、その華々しい経歴の裏にある特別な才覚を想像するかもしれない。しかし、彼女の強さの根幹には、自らの壮絶な逆境を通じて体得した哲学がある。

藤﨑氏へのインタビューを通じ、困難な状況でも前向きに進むためのヒント、そしてこれからの時代に求められる経営者の在り方を探った。

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短大卒業後、21歳で政治家の夫と結婚し専業主婦に。39歳の初就職で『渋谷109』店長に就任し、その後は新橋の居酒屋アルバイト、居酒屋経営を経て現職へ。

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初就職で年商を倍にするも、夫が要介護に。その後、突然の解雇を経験

藤﨑氏の哲学を理解する上で欠かせないのが、彼女が経験してきた逆境である。39歳の時、夫が病に倒れたことを機に家計を支えるべく、ヤングカジュアルブランドがひしめく『渋谷109』のアパレルショップへ飛び込んだ。人生で初めての就職ながら店長、専務取締役を歴任し、年商を倍にまで成長させている。

その矢先、夫が脳梗塞で倒れ、要介護4と診断され、介護と仕事の両立を余儀なくされた。一見すると絶望的な状況だが、藤﨑氏は当時を振り返り、仕事があったことが救いだったと語る。

「24時間、夫のことだけを考えていたら、自分の心が壊れてしまっていたかもしれません。でも、仕事に夢中になれる時間があったからこそ、心のバランスを保てたんです。夢中になれるものを複数持つことは、自分を助けることに繋がるのだと、この時学びました」

しかしその1年後に、会社の経営方針の変更という理不尽な形で、情熱を注いできた仕事まで失ってしまう。

「人生であれほど苦しいことはなかったかもしれません。本当に悲しかったし、つらかった」

1970年に日本初のハンバーガーチェーンとして創業した『ドムドムハンバーガー』。現在国内に29店舗を展開し、2025年10月には台湾・台北に海外1号店がオープンした

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多くの人が「失敗」と捉えるであろう失業さえ、藤﨑氏は「失敗」と呼ばない。「私には、失敗という概念があまりないんです」。そう断言する彼女は、成功も失敗も、目的地へ向かう同じレールの上で起こる、ただの“事象”だと捉えている。

「もし、あの出来事を失敗だと捉えていたら、すごく苦しくなっていたはずです。でも私は、そうなったからには次を考えようと、すぐに切り替えました。『働けない夫の代わりにも、大学に通う息子のためにも、私が稼がなくてはいけない』その一心で、すぐに新橋の居酒屋でアルバイトを探し始めました」

この驚くべき精神的な回復力の源泉は、苦しい状況下で編み出した「自分を愛でる」という自己防衛術にもあるという。藤﨑氏は、誰かに慰めてもらうのではなく、自ら自分を認め、肯定することで心のバランスを保ってきた。

「これができなくても、これならできるじゃないか」と、過去にとらわれるのではなく、経験から得た糧を未来へのエネルギーに変える。この藤﨑氏の美学が、どんな逆境にも屈しない、しなやかで強靱な精神を育んだのだろう。

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中森りほ

ライター: 中森りほ

グルメ系ウェブメディアの編集・ライターを経て2017年よりフリーライター&編集者として活躍。『食べログマガジン』『Web LEON』『Numero.jp』などで、グルメや旅記事を執筆中。