専業主婦からドムドム社長へ。藤﨑忍の「失敗はただの事象」という逆境突破術
「不安症だからこそ、目の前のことに集中する」
藤﨑氏のもう一つの美学は、自らを「不安症」と認め、それを強みに転換している点にある。失敗を恐れるからこそ、目の前の課題を一つひとつ着実にクリアしていくことに全力を注ぐのだ。
「高みを目指しすぎると、今何をすべきかが見えづらくなってしまう気がします。私は社長になりたいと思ったことも、むやみに店舗数を増やしたいと思ったこともありません。ただ、目の前の課題と向き合い、やれることを一つずつ積み重ねてきただけなんです」
この地に足のついた姿勢が、具体的な行動へと繋がっている。社長就任当時、最も大きな課題は「スタッフの不安」であった。事業譲渡から間もなく、元専業主婦が社長に就任する状況に、現場が動揺するのは当然だろう。そこで彼女が取った行動は、経営戦略の発表ではなく、現場に身を置くことだった。
「突然来て『これやれ、あれやれ』と言っても、誰にも聞いてもらえません。信頼している人の話しか聞けないじゃないですか」
その信念のもと、社長就任後もスーパーバイザーを兼任。週のうち4日は店舗を回り、本社での会議は月曜のみ、という生活を2年近く続けたという。これは、遠い理想を語るのではなく、「信頼関係の構築」という目の前の課題に誰よりも真摯に向き合った結果の行動だった。
お客をブランドづくりの「共創者」として巻き込み、熱量の高いコミュニティを育む
「他者への尊重」と「調和」を重んじる藤﨑氏の哲学は、社内だけでなく、対お客の姿勢にも色濃く反映されている。その象徴が、ブランドアイコン「どむぞうくん」のアイテム展開だ。
「ブランドはお客さま、スタッフの人生に寄り添い、共感、協働することで作られていくものです」
この信念を体現するように、新商品の企画やネーミングは、お客との対話の中から生まれることが多いという。当初、5色の「どむぞうくん」キーホルダーを発売する際、「ドムクルーズ」と名付けたのは藤﨑氏の遊び心だったが、その後の展開はまさにお客との共創であった。
「『銀座 博品館』でのポップアップに合わせて、限定カラーのどむぞうくんを作った時の話です。発売を告知すると、SNS上で『この子の名前は何だろう?』と自然に話題が盛り上がりました。そこでお客さまも巻き込んで名前を考え、『博品館』にちなみ『博(ひろし)』と名付けたんです」
これは単なるマーケティング手法ではない。企業側が全てを決め込むのではなく、お客をブランドづくりの「共創者」として巻き込むことで、熱量の高いコミュニティを育んでいるのだ。答えは会議室にあるのではなく、常に現場と、そこにいるお客の声の中にある。この藤﨑氏のブレない姿勢が、多くのファンを惹きつける強力な引力となっているようだ。





