専業主婦からドムドム社長へ。藤﨑忍の「失敗はただの事象」という逆境突破術
社長の理念や方針のアウトプットが、スタッフのインプットになる
藤﨑氏のユニークな点は、メディアへの露出を「社内へのインプット」と捉えていることだ。
「例えば、学校の先生が朝礼で話すことや、社長が全社員を集めて会社の思いを語っても、なかなか耳に入らないことってありますよね。でも、それがメディアの記事になると、スタッフが『自分たちの会社の社長は、こういうことを考えているんだ』とすんなり理解してくれるんです」
自らが会社の広告塔となって理念や方針を「アウトプット」すると、それが社内に還流し、スタッフの理解と共感を深める「インプット」になるという。この好循環が、組織の一体感やエンゲージメントを着実に高めてきた。その成果は、社内コンテストの応募数にも現れている。「バーガーアイディアコンテスト」では、以前とは比べ物にならないほどのアイデアが集まり、その質も「うちの商品作りをよくわかっている」と藤﨑氏を唸らせるものばかりだったそうだ。
社会に求められる「思いやり」。女性のキャリア、そして未来へ
藤﨑氏の「他者を尊重し、思いやる」という哲学は、社会全体が抱える課題にも向けられる。飲食業界における女性のキャリアについて尋ねると、彼女はそれを「女性」だけの問題としてではなく、より普遍的なテーマとして捉えていた。
「育児や介護は、性別を問わず誰にでも起こりうることです。だからこそ、必要な期間は休むという選択を気兼ねなくできる制度と、何よりもそれを許容する会社や社会の『雰囲気』が重要になります」
特に人材が限られる中小企業では、一人が休む影響は大きい。だからこそ、「誰かが困ったときに、みんなでフォローし合える土壌を作ること。そして中小企業向けには、休業時のポジション補完に関する実務的支援として、国や自治体が助成・人材供給を行うことが不可欠だ」と語る。藤﨑氏の言葉には、数々の現場を歩き、人と向き合い続けてきた者だけが持つ、確かな実感が込められていた。
インタビューの最後にキャリアに悩む人、自分らしい働き方を見つけたい人に向けたメッセージを求めると、彼女らしい実直な言葉が返ってきた。
「自分らしい働き方なんて最初はわからないから、何でもやってみてほしい。まずはワンクール、約1年でいいから、会社のために必死で働いてみてほしいんです。自分軸ではなく会社軸で働くことで、誰かからの指摘も個人への攻撃ではなく、業務を改善するためのアドバイスとして素直に受け止められるようになります。それは結果的に、自分自身のメンタルを健全に保つことにもつながるはずです。仕事が合うか合わないかも、働き始めてすぐに決めつける必要はありません。ある程度続けていくうちに、自分らしい働き方が見つけられるはずです」
壮大なビジョンや計画がなくとも、目の前のお客と仲間に誠実に向き合い、一つひとつの仕事に心を込めること。その愚直なまでの積み重ねが、やがて道を拓く。藤﨑忍というリーダーの生き方は、私たちに仕事との、そして人生との向き合い方を改めて示してくれた。
藤﨑忍(ふじさき・しのぶ)
1966年7月、東京都墨田区生まれ。短大卒業後、区議会議員の男性と結婚。主婦として子育てなどに奔走していたが、39歳の時に夫が病に倒れ、生活のために就活。渋谷109のアパレルショップに就職。小さなことから改善を重ねるうちに、売り上げを倍増させる。5年間働いた後、2011年から東京・新橋に居酒屋を開店。みるみるうちに予約の取れない人気店になる。夫の介護の傍ら、翌年には2軒目を出店。常連に見込まれ、17年にドムドムハンバーガーの新商品開発担当として転職。「厚焼きたまごバーガー」をヒットさせ、わずか9カ月で社長に就任。テレビ朝日系「激レアさんを連れてきた」テレビ東京系「ガイアの夜明け」出演等。2025年11月25日には、初のエッセイ本『39歳、初就職』を発売予定。
『ドムドムハンバーガー赤羽店』
住所/ 東京都北区赤羽1-5-1
電話番号/ 03-3901-3141
営業時間/ 9:00~21:00
定休日/ 無休
https://domdomhamburger.com/
Photographs/Ushio Sato











