下北沢『where』がカフェとレストランを共存させる意味。届けたいのは「食体験の感動」
レストランシェフがカフェ営業を行う意味とは? 時には理論より哲学が優先
上質なカフェとレストラン——。こうした小林氏の店づくりの根幹には何があるのだろうか。見え隠れするのは、一貫して追求する「本物の食体験」の存在だ。
「売上的にも営業日数的にも、実際の主戦場は夜のレストランです。でも、いつ何時も……、つまりカフェにおいても、『本物を届ける』のが僕の哲学。それは単に料理やコーヒーの味だけではなく、その瞬間の食体験を構成するものすべてです。空間、音楽、皿、カップ、カトラリー、サービスすべてをデザインすることで、富裕層以外のSNSネイティブ世代やZ世代にも『食で心を揺さぶられる』体験を届けたい。特に昨今、カフェはファッションとして扱われる側面がかなり大きい。だからこそ、そうではない『おいしさで得られる感動』を届けることに、料理人である僕がカフェをする意味があると信じています」
小林氏は、実に博識だ。料理人として確かなキャリアと実績を積みながらも、マーケティングの知識から行動経済学、心理学、さらにはデザイン理論やトレンド、SNS戦略まで、さまざまな知見を習得し、店づくりに巧みに生かしてきた。
だがそれでも、利益や繁盛のためにそれらの理論を優先してまで、“取り繕う”ことはないと断言する。カトラリーやグラス一つをとっても、キャッチーなビジュアルでSNS受けするトレンドのものではなくクラシカルで格式ある一級品を使い、仕入れ値は高くても心から勧められるワインだけをそろえ、作業が増えるとわかっていても、メニューや皿は都度テーブルから下げて、食事のペースや必要に応じて何度もお客の元を行き来するのだ。
「非合理的でやや偏屈だとわかっています。でも、譲れない。自分にもお客さまにもウソをつきたくないから。ワインを打ち出すからには、同業のプロに見られても恥ずかしくないワインだけを世界最高峰のグラスで提供したいし、サンドイッチのプレートでもパスタでも自分が届けたいおいしさは、それを最大限に感じてもらえるよう、すべての要素を演出したい。細部まで目と手と心が行き届いた店で味わうおいしい体験は、やっぱりすごく感動的ですから」
ビジョン実現のためには、デジタルの活用は必須
ただ、そんな自身の哲学を貫く裏側では、徹底した現場作業の効率化が図られている点にも、小林氏らしさが垣間見える。特に『where』ではデジタルツールを積極的に活用し、シフトやレシピ、在庫の管理・共有から採用業務、SNS素材の作成、デザイン設計などをすべてクラウドやソフトウェア、AIで行っているという。
シフトやレシピの変更はスタッフ全員がクラウドで共有して伝達漏れを防ぎ、採用活動にはエントリーシート代わりにGoogleフォームを活用。作る人数に合わせた正確な分量計算やレシピ検索もAIを使えば一瞬だ。結果、あらゆる作業の精度が向上し、仕込みとお客のためにかけられる時間と労力も増加。届けたいものを届けられることにつながっていると話した。
「デジタルの話をすると料理に専念していないと疑われがちなんですが(笑)、デジタルを活用しているからこそ店に来たらほぼ料理しかしていません。毎日投稿しているように見えるSNSも1週間分まとめて予約投稿で対応しています」




