「タイミー」で直接採用は可能? スポットワーク訴訟から学ぶ教訓と『串カツ田中』の内製化戦略
飲食店による“直前キャンセル”を巡る訴訟で、店舗側に未払い賃金の支払いが命じられた。スポットワークの普及が進む一方、労務管理や「直接採用は可能なのか」といった点に、改めて注目が集まっている。
人手不足が深刻化する飲食業界では、「タイミー」などの活用が広がっているが、手数料負担や法的リスクは経営上の悩みとなっている。こうした中、スポットワーカーを自社で取り込む「内製化」に踏み出す企業も現れ始めた。今回は、「タイミー」の利用ルールを改めて確認しつつ、独自の仕組みでスポットワーカーの活用に取り組む株式会社串カツ田中の事例も紹介する。
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スポットワークでも「雇用主」の責任は免れない。賃金未払い訴訟の教訓
2025年12月、スポットワーク仲介アプリ「タイミー」を介した勤務を巡り、賃金未払いを争った訴訟で、飲食店側に支払いを命じる判決が言い渡された。スポットワークを対象とした司法判断としては初めてとみられ、状況によっては店舗側が雇用主としての責任を負うことを示した点で、業界内でも注目を集めている。
訴訟を起こしたのは、5月に「タイミー」を通じて飲食店の求人に応募した大学生の男性だ(参考1)。男性は、勤務予定だった仕事について、前日に店舗側から一方的にキャンセルされたとして、未払い賃金の支払いを求めて提訴した。裁判所は、「マッチングが成立した時点で労働契約は成立していた」と判断し、店舗側に賃金の支払いを命じた。
本件で争点となったのは、スポットワークという形式そのものではなく、どの時点で労働契約が成立し、誰が責任を負うのかという点である。裁判所は、短時間・単発の勤務であっても、実態として労務を提供し、賃金を受け取る関係にあれば、労働基準法は通常のアルバイトと同様に適用されるとした。
「タイミー」から「直接採用」はNG? 利用規約を正しく理解しよう
人手不足に悩む飲食店では、スポットワークサービスを活用して臨時の戦力を確保するケースも少なくない。その中で、「この人に長く働いてほしい」と感じる場面もあるだろう。
「タイミー」では、ワーカーを自社スタッフとして直接雇用することを公式に認めている上、紹介手数料も発生しない(参考2)。同サービスは、単発・1日単位の「スキマバイト」のマッチングを目的としているが、実際の勤務を通じて人材を見極め、その後の採用につなげる使い方も可能だ。飲食店にとっては、採用コストを抑えながら人材を確保できる点がメリットといえる。
一方で、長期採用を前提とした面接や面談のみを主な目的とする利用や、当初から長期就労が可能な人材だけを対象とした募集は、利用規約で禁止されている。あくまでスポットワークとして業務を依頼し、その勤務実績を踏まえた結果として、直接雇用に至る流れが前提だ。
『串カツ田中』が独自システムで実現する、スポットワーカーの「アルムナイ採用」
株式会社串カツ田中では、一定回数リピートしている“常連”ワーカーを自社で管理・育成する仕組みを構築している(参考3)。これは、過去に自社で働いた経験を持つ人材を「資産」と捉えてつながりを維持する「アルムナイ(離職者・過去勤務者)」制度に近い発想と言えるだろう。これにより同社は、スポットワーク利用に伴う手数料負担の軽減に加え、人材育成や運用にかかるコスト削減を実現した。さらに、従来のスポットワークサービスと並行して活用することで、新規ワーカーの獲得と、既存ワーカーの定着を両立させている点も特徴だ。
人手不足が深刻化する中、「タイミー」をはじめとするスポットワークプラットフォームに頼らざるを得ない店舗も多い。物価高騰や人件費増といったコスト上昇に直面する経営者にとって、同社の取り組みは、スポットワークを“一時的な穴埋め”に終わらせないための、有効な選択肢の一つといえるだろう。











