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数か月先まで予約で埋まるたった6席のイタリアン。『ペレグリーノ』高橋隼人シェフの孤高の戦い

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『ペレグリーノ』オーナーシェフ・高橋隼人氏

北イタリア、エミリア・ロマーニャ州の郷土料理を提供する恵比寿の『PELLEGRINO(ペレグリーノ)』はすべてが個性的だ。営業日は週4日で、一日6人の完全予約制。席はすべて壁側に置かれ、オープンキッチンで調理する様子が見えるようにセッティングされている。メニューはおまかせコースのみ。ワインのペアリング込みで2万7000円からという値段ながら、数カ月先まで予約で埋まっている。そんな『ペレグリーノ』のオーナーシェフ・高橋隼人氏に、料理人としての哲学を聞いた。

すべてを最高値で提供する

取材日当日。朝10時に店を訪れると、すでに高橋氏は料理の仕込みを始めていた。聞けば、営業日は9時間以上、仕込みに時間をかけているという。

「パスタはその日に使う分だけを練り、残った分は使いません。パン生地は朝から天然酵母で発酵させて、お客様が来る時間に合わせて焼き上げます。気をつけているのは、準備しすぎないこと。たとえば『明日の分のパンも仕込んでおこう』というのは、準備しすぎなんですよ」

高橋氏は、パンをはじめとするすべての料理を、客が口にしたときに一番いい状態になるように計算して仕込みをするそうだ。

「この店のコンセプトは、すべてを最高値で提供すること。パンであれば、焼いているときの香りまで堪能してもらえたら、小麦粉冥利に尽きると思っています。当店ではお客様の来店時間が19時15分から25分までと細かく決まっているので、それに合わせてパンを焼いています。お客様が扉を開けたときに、小麦の香ばしさが広がるように計算しているんですよ」

パンの香りに迎えられた客は、高橋氏が前菜のハムを目の前でスライスし、パスタを手打ちし、肉を焼く様子をじっくりと眺める。五感で楽しむ客席はまさに“シェフズテーブル”である。

6席の客席はすべて厨房を向くように配置されている

なぜ客席を6席にしたのか

『ペレグリーノ』は、2015年4月21日に 西麻布から恵比寿2丁目に移転した。移転前の客席は16席だったが、14席、12席……と少しずつ減らし、今では6席になっている。その理由について高橋氏はこう話す。

「食材や調理、内装、たたずまいなどすべての要素を最高値で提供するには、6席が限度かなと思ったのです。将来的に2席にするかもしれません(笑)」

調理から給仕まですべてを高橋氏が行っているため、もてなせる客に限りが出てしまうのは当然だ。スタッフを雇うことは考えていないのだろうか。

「例えば三ツ星レストランであっても、グランシェフが毎日、スタッフ全員の仕事に目を光らせるのは現実的に不可能で、ほんのわずかな隙が生まれるのではないかと考えているんです。そういう意味で、僕は誰かにやってもらうというのが考えられませんでした」

そう言うと、高橋氏は店の中央に据えられた、イタリア直輸入の手動生ハムスライサーを磨き始めた。パーツを取り外し、隅々まで洗剤をつけてスポンジでこすり、水拭きと乾拭きを何度も繰り返している。磨かれた刃の表面が鏡のように光っていた。

「このスライサーの手入れ一つとっても、誰かに任せると自分が思うようなきれいさになりません。愛情をこめて一つひとつ丁寧にやることで魂がこもると思っています。とくにスライサーは店の中央にあるため、お客様の目に触れやすいものです。この表面にわずかにでも拭き跡が残った状態でお金をいただくというのは、自分自身が納得できません。刃もうっすらと水膜がついている状態だと切れ味が落ちるので、事前に洗った上で、ハムを切る直前に刃を研いでいます。そうすることで自分が狙ったとおりの厚みや、フレッシュな香りを出すことができるんです」

誰にも見えないような箇所まで心をこめて磨き上げる高橋氏を見ていると、「神は細部に宿る」という言葉が浮かんできた。このような小さな仕事の積み重ねが、料理の完成度を極限まで高めているのかもしれない。

スライサーを磨く高橋氏

『ペレグリーノ』のベスト・オブ・ベストの料理は?

『ペレグリーノ』と言えば生ハムを使った料理がよく知られている。本場パルマのプロシュート、岐阜産ペルシュウなど数種類の生ハムが目の前でスライスされ、あらゆる食べ方で味わえる。同じハムでも熟成期間が違うものを食べ比べたり、外腿と内腿で温度を変えて調理したりする。どうしてこのような提供方法をとっているのか理由を伺った。

「僕の修行していたイタリアの地方では、ハムやサラミ、ソーセージを総称してサルーミ(salumi)と呼んでいました。伝統的なサルーミだけで何種類もあるため、『生ハムと言ったらこれでしょう』とは言えません。あらゆる種類のサルーミを調理法を変えて提供することで、サルーミの豊富さ、美味しさを知ってもらいたいと考えています。それと、一種類の生ハムだけを提供して、大勢を納得させる自信がありませんでした。今の提供方法であれば、訪れた人の大半に満足してもらえるのではないかと考えています」

生ハムの魅力を最大限伝えるために、数種類を同時に提供する

目の前でスライスされ、次々と運ばれるサルーミに歓声を上げるお客も多いそう。とくに、発酵バターと揚げたてのパンとともに食べる生ハムの王様「クラテッロ ディ ジベッロ」はスペシャリテと名高い。やはり『ペレグリーノ』のベスト料理は生ハムなのか。

「生ハムだけでなく、すべての料理が僕のベスト・オブ・ベストです。そういうふうに自信を持って言いたいですし、プレッシャーに負けない精神力を身につけたいと思っています。仮に、世界中で食べ歩いている美食家やミシュラン調査員が正体を明かさずに訪れたとしても、自分が恥ずかしくないよう、常に『これが僕の最高の一皿です』という自負を持っていたいですね」

最高というのは、答えがないものだ。ゴールにたどりついたと思ったら、また次の目標が見えてくる。高橋氏はこれからも自分のベストを追及し続けるのだろうか。

「そうですね。今日『最高だ』と思ったことが、明日もそうとは限りません。常により良い状態を追い求めていきたいです。そうなってくるとお客様というより自分との戦いになってきます。例えば、ほんの少しだけ手を抜いたとします。お客様が気づかなくても、自分だけはそれを知っています。他人の目はごまかせても、自分の心はだませません」

自分に嘘はつかないこと。それは簡単そうで難しい。人は簡単でラクなほうに流されてしまいがちだ。高橋氏が何度も「すべてを最高値で」と口にするのは、安易な方に身を任せないという決意の表れのように思えた。ストイックに料理のおいしさを追求し続ける『ペレグリーノ』は、世界に誇る日本の美食を選出する「The Tabelog Award 2017(食べログアワード 2017)」でも金賞を受賞している。これからも、誰よりも厳しい自分自身に正直に、料理の最高値を更新し続けていくことだろう。

すべては最高値を更新し続けるために

『ペレグリーノ』 オーナーシェフ・高橋隼人
新潟県生まれ。ワーキングホリデー先で料理に目覚め、帰国後は都内や徳島などのイタリア料理店で働く。29歳でイタリアへ渡り、エミリア=ロマーニャ州のイタリア料理店で修業する。帰国後、西麻布に『ペレグリーノ』をオープン。2015年に恵比寿に移転し、全6席の現在のスタイルになった。

『ペレグリーノ』は住宅街にひっそりと佇む

『ペレグリーノ』
住所/東京都渋谷区恵比寿2・3・4 1F
電話番号/03・6277・4697
営業時間/19:15開場、19:30一斉スタート
定休日/月火木定休(要予約)
席数/6
http://pellegrino.jp/

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三原明日香

About 三原明日香

これまでに、百貨店の会報誌や、フリーペーパー、グルメ冊子、地域の経済新聞などで取材記事を執筆。社会保険労務士や年金アドバイザーの資格を持ち、人事労務の分野にも詳しい。趣味は都内のカフェめぐりで、とくにチョコレートには目がない。