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「これからは賃料0円の店しか経営しない」。東京ピストル・草彅洋平氏の型破りな飲食店経営術

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本はすべて草彅さんの私物

『BUNDAN』の構想を練ったのは物件を借りてから

実は、店内にある2万冊の本はすべて草彅さんの私物だ。かなりの読書家として知られている彼だが、最初からこういったカフェをやりたくて計画していたのだろうか?

「いえ、まったくの偶然です。たまたまこの物件が空いていると知ったときに、『僕がやります』と手を挙げてから何をやるか考えたんです。せっかく文学の総本山である近代文学館の中でやるなら、普通のカフェではなくて、今までとは違う角度から文学を知ってもらいたいと思って提案したのが『BUNDAN』でした。僕は相当量の本を読んできたし、そこに対しては命をかけていたところがあるので、『自分が好きな文学のためだったら殉死してもいいや』という気持ちで作りました」

場所を借りてからどんなお店にするかを考えるというのは、かなり斬新なアプローチだ。

「普通の飲食店は、まず『ピザ屋をやりたい』とか『イタリアンの店を開きたい』と思って物件を探すじゃないですか。僕の場合は逆で、物件からストーリーが始まるんです。街をブラブラしていて、すごくいい物件に出合えたら、とりあえず借りて『ここで何しようかな』って考えるんです。僕は断然そっちのほうがいいと思っています。なぜなら場所の持つ力ってすごく大きいから。僕はシズル感のある物件を抑えられたら勝ちだと思っています。『BUNDAN』もそうです。森の中にあって、国の重要文化財が目と鼻の先にある物件なんて、普通は借りられません。『この街にはこの店がピタッとくるよね』というのを考えて、店舗化していくのが僕の仕事だと思っているし、これからもこのベクトルでやっていくつもりです」

『BUNDAN』は文学の総本山である近代文学館の中にある

一般的な飲食店とはアプローチが真逆の草彅さん。彼いわく、出店する場所選びで失敗してしまっている店が多いという。

「たとえば、京成立石駅周辺には歴史のある小さな個人店がたくさんありますよね。あそこは商店街の風景に溶け込んで、屋台でもつ焼きを食べたり、立ち食い寿司の行列に並んだりすることがストーリーになっているんです。そこで積み重ねてきた歴史を感じることが、訪れる人にとって付加価値になっているんですね。それを無視して、『賃料が安いから』というような理由で、周囲から浮いた店を作ると必ず失敗します」

街の雰囲気や住民にぴったり合う店というのは、具体的にどういうものだろうか?

「僕の知り合いに、ホスト王の手塚マキさんという方がいるんですが、彼は天才です。彼の経営する歌舞伎町の『Jimushono1kai(ジムショノイッカイ)』は、カウンターでホストがお酒とハンバーガーを提供し、壁一面の大型スクリーンでカラオケできるようになっています。通りがかりの人をみんな巻き込んで連日大盛況です。手塚さんも『こういう店がやりたい』というところからスタートしているのではなく、『事務所の1階が空いているし、ホストもいるけど何しようかな』という発想から店をプロデュースしています。あの店は立石や駒場公園では成り立ちません。歌舞伎町だからピタリとハマるし、面白い。そういう面を含めてトータルで考えられる人は少ないですね」

街という大きなパズルに、自分の店というピースがピタリとハマるか。出店するエリア全体を俯瞰して考えることで、どんな店が人気店になるか、答えが見えてくるかもしれない。

「シズル感のある物件を抑えられたら勝ち」と語る草彅さん

物語を語ることで、料理の価値を上げる

『BUNDAN』では、モチーフにした文学作品や料理そのものについてメニューで丁寧に語っている。そのことにより、料理の魅力が引き出され、付加価値が高まっているように思う。同じように店や料理にまつわるストーリーを語ることで、価値を高めることはできるのだろうか。

「それはできると思いますよ。池袋に『かぶと』といううなぎ店があるのですが、ビクビク動いている心臓から始まり、いろんな部位を食べさせてくれるんです。うなぎに部位があるという概念を教えてくれた店ですね。でも、これは先代の話ですけど、山椒をかけると、めちゃくちゃ怒られるんです(笑)。山椒って、もともとはマズイうなぎの味や香りをごまかすためにかけられていたらしいんですよ。だから『俺のうなぎに山椒かけるとは何事だ!』って叱られる。『だったら置かなければいいじゃん(笑)』って思うけど、自分の知らないことを情熱持って教えてくれるのが魅力になっているんです。人は、自分の知らない物語を付与されたときに視点が変わります。どんなにこだわりがあって美味しいものでも、味覚だけですべてが伝わるわけじゃありません。『なるほど、勉強になったな』『これは人に話したくなるな』というのが大事なんじゃないですか。そういうことがうまくできているお店は流行っていますよ」

作り手側は「美味しいものを作ればわかってくれる」と考えてしまいがちだが、食べる側は微妙な味の違いには気付かないことも多い。しかしそのこだわりを熱心に伝えることで、客が食事するときの楽しみが膨らみ、付加価値になるのかもしれない。

賃料0円の飲食店を増やすチャレンジ

最後に、草彅さんが今後チャレンジしたいことを伺った。

「僕はいろんな飲食店を飲み歩いてインタビューしているのですが、飲食店のプレイヤーが疲弊しているのを感じます。今の賃料相場は高いし、東京で出店するのはすごくリスキーです。でも、プレイヤーが満足して長く働いてくれれば、街に活気が出るじゃないですか。だから不動産のオーナーはプレイヤーに対して賃料を0円にするか、最大限安くするべきだと考えているんです。たとえばベンチャー企業にしてお互いに出資し合うとか、売り上げの10%を収めるとか、いろんなやり方があると思います。僕は賃料という悪しき制度を破壊したいし、変えるきっかけを作りたいんです。みんな『できるわけない』と言いますが、すでに物件の情報は集まってきているし、今後、僕は賃料0円でしか出店しません。街づくりの基本は良いプレイヤーを集めることです。プレイヤーが街をつくり、価値をあげるんです。賃料0円で物件を貸したい人はぜひご連絡ください(笑)」

さまざまな企画やプロデュースを手がけてきたクリエイターの草彅さんだからこそ、飲食店の枠を超えた発想が次々と出てくるようだ。業界の既成概念を壊す草彅さんの活躍が、今後も楽しみである。

クリエイターだからこその発想で店づくりを行う草彅さん。次なる仕掛けが楽しみだ

草彅洋平(くさなぎようへい)
株式会社東京ピストル代表取締役、編集者。1976年、東京都生まれ。あらゆるネタに対応、きわめて高い打率で人の会話に出塁することからついたあだ名は「トークのイチロー」。インテリア会社である株式会社イデー退社後、2006年株式会社東京ピストルを設立。ブランディングからプロモーション、紙からウェブ媒体まで幅広く手がけるクリエイティブカンパニーの代表として、広告から書籍まで幅広く企画立案等を手がける次世代型編集者として活躍中。

『BUNDAN COFFEE & BEER(ブンダン コーヒー アンド ビア)』
住所/東京都目黒区駒場4-3-55(日本近代文学館内)
電話番号/03-6407-0554
営業時間/9:30 ~ 16:20 (L.O. 15:50)
定休日:日曜日・月曜日・第4木曜日(日本近代文学館に準拠)
席数/24
http://bundan.net/

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三原明日香

About 三原明日香

これまでに、百貨店の会報誌や、フリーペーパー、グルメ冊子、地域の経済新聞などで取材記事を執筆。社会保険労務士や年金アドバイザーの資格を持ち、人事労務の分野にも詳しい。趣味は都内のカフェめぐりで、とくにチョコレートには目がない。