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飲食店経営者が意識すべき人時売上高の目安・労働分配率とは?人件費率を30%に抑えるだけじゃダメ!?

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Photo by iStock.com/Rawpixel Ltd

飲食業では人件費を売上の30%以内に抑えるべきだと一般的にいわれている。もちろん一つの目安であるが、生産性を意識するなら着目すべき数字がほかにもある。その代表が人時売上高だ。一人の従業員がいくら売り上げたかがわかるため、適正な人件費を割り出すといったことができる。今回は人件費をコントロールするために、主に人時売上高からアプローチしていく。

人件費率の基本的な考え方とコントロールの仕方

同じ売上だとしても、こだわりの食材を使った原価が高い店舗と、比較的安価な食材を使う店舗では、使える人件費も変わってくる。例えば、A店は原価率が40%、B店は原価率が25%、両店ともに人件費以外の販売管理費に30%、営業利益率を10%で設定している場合、A店は人件費率を20%に抑えなければならないのに対して、B店では35%かけても目標利益を確保することができる。

人件費をコントロールするには、まずはシフトが予算通りに組まれているかを確認する。日別の売上予算があれば、売上予算に対する適正な人件費額とそれに基づくシフトが決まってくるはずだ。売上予算と実績の違いを日々確認しながら、実績の変動に応じてシフト(人件費)のコントロールをしていこう。スタッフが数名であればシフト管理はエクセルで十分であるが、最近は様々なWebツールもある。各社様々なツールを提供しているので、活用してみてはいかがだろうか。

また、スタッフの生産性を考慮することも大切だ。人件費率を30%と設定したとしても、給料や時給が高いスタッフもいれば低いスタッフもいる。全国展開しているチェーンでは、同じくらい仕事ができるアルバイトでも、働く地域によって時給の差が出る場合もある。同じ人件費率でも雇えるスタッフ数は全く違う場合もあるだろう。

例えば、売上が同じ店舗で、C店は時給900円のスタッフが1日に10人、8時間ずつ働く、D店では時給1000円のスタッフが1日に9人、8時間ずつ働くとした場合、人件費(率)は両店共に同じである。ただ、昨今の労働力不足の問題を考えれば、時給が高くても1人1人の生産性が高いD店の状態を目指すべきだろう。このような考え方も必要になってくる。

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人時売上高とは

スタッフ1人1人の生産性を測る場合、指標の一つが人時売上高だ。人時売上高は、1人のスタッフが1時間働いた際の売上高のこと。この人時売上高を把握すると何がわかるかというと、人件費が適正かどうか、目標の売上高に到達するためにシフトをどう組んだらいいか、などだ。つまり、効率的な人材配置、さらには人件費のコントロールなどもできるようになる。

似たような言葉に「人時生産性」があるが、人時売上高とは異なり、スタッフ1人が1時間で得た利益のこと。人時生産性はお店そのものの生産性、人時売上高は業界内での生産性を比較する際に用いることが一般的だ。

Photo by iStock.com/littlehenrabi

着目すべき数字

では、どのような数字に着目すべきだろうか?

利益に関しては、まず労働分配率があげられる。これは粗利益(売上から原価を引いたもの)に対して、人件費がいくらかかるかを表したものである(人件費÷粗利益)。粗利益を用いているので、利益を意識した指標と言える。一般的には40%以下が望ましいと言われている。

生産性に関しては、人時売上高という指標がある。これは売上高を労働時間で割ることで、従業員1人あたりの1時間の売上を表すものである(売上÷労働時間)。一般的には5000円以上が基準となっているが、高すぎると顧客の不満につながるため注意する。

ほかにも平均時給(社員を含めた全従業員の平均時給)や人時接客数(従業員1人あたりの1時間の接客数)などもあるが、まずは人件費率・労働分配率・人時売上高をおさえておくとよいだろう。次の項から人時売上高について、具体的に見ていこう。

人時売上高の平均値と理想的な数値とは?

店舗の利益を上げるには、売り上げを上げることと、経費を削減することが2本柱になる。そのうち顧客満足を下げないようにするには、次の2つの方法が考えられる。

・無駄な人件費を発生させない
・スタッフ1人1人の能力を伸ばす

つまり労働生産性を向上させることが重要で、そのときに重視したいのが人時売上高だ。人時売上高は、売上高を労働時間で割ることで求めることができる。計算式は下記の通り。

人時売上高=店舗の月間売上高÷店舗の月間総労働時間

それぞれの飲食店では、店長や正社員、アルバイトなど給与体系や時給が異なるが、人時売上高を計算する際は全スタッフの総労働時間で算出する。例えば、月間売上高が200万円の店舗で全スタッフの月間総労働時間が600時間であれば、人時売上高は下記のような計算となる。

人時売上高=200万円÷600時間=3,333円

つまり、この店舗は1人のスタッフが1時間に3,333円を売り上げていることがわかる。スタッフの平均時給が1,000円とすると、1時間あたり1,000円の人件費を使って3,333円の売上高を得ているということ。つまり売上高の約3割が人件費として使われている計算になる。

一般的な飲食店では、3,000円〜4,000円程度が人時売上高の平均値となる。ただし、目標としたいのは5,000円で、5,000円以上になると優良店と評価される。つまりこの店は、人時売上高を改善する余地があると考えられる。その改善方法について次の項目で見ていこう。

人時売上高を把握することで無駄な人件費を削減する

人時売上高に改善する余地があるということは、無駄な人件費が使われているということでもある。人時売上高を目標の5,000円に設定した場合、先ほどの店舗では月間総労働時間が多すぎるということになる。計算式に当てはめてみると、

5,000円(目標の人時売上高)=200万円(現在の売上高)÷400(目標の総労働時間)

ということになる。つまり月間200時間の人件費を削減する余地があるということだ。

これを実現するのが、無駄のない適正なシフトと、人材教育によるスタッフ1人1人の能力向上だ。例えば、1人で複数ポジションのオペレーションがこなせると、いざという時の配置もラクになるので、日頃からトレーニングをしておこう。評価制度と連動することで、本人のモチベーションアップにもつながるはずだ。

ただしスタッフの教育には時間がかかり、適正なシフトを組むにはそれに見合った能力が求められる。特に飲食店の場合は日によって売上が異なる上、混雑する時間帯とアイドルタイムを見極めてシフトを調整する必要もある。そのため店舗責任者として、普段からスタッフの能力を見極め、人時売上高をもとに適切なシフトを組む能力を身につけるようにしておくようにしておこう。

人時売上高のもう一つの活用法とは?

人時売上高を把握すると、1日の目標売上高を達成するために必要な人員もわかる。そのための適正なシフトも組めるようになるのだ。例えば、1日の目標売上高を30万円とすると、下記のような計算式になる。

1日の総労働時間=30万円(1日の売上目標金額)÷5,000円(目標人時売上高)=60時間

つまり、30万円の売り上げを達成するには、その日のスタッフの労働時間が60時間になるようにシフトを組めばいいということになる。このように人時売上高を活用することで、目標を達成するために、適正なシフトを組めるようにもなるのだ。

人時売上高を優先することで注意したいポイントとは

ただし注意したいのは人時売上高が高くなりすぎることだ。人時売上高が高いということは少ない人数で十分な売り上げを上げていることになる。つまり優秀なスタッフが揃っており、少ない人数でもお店が十分に回っていることになる。

その一方、人時売上高が7,000円や8,000円などと高くなりすぎると、スタッフの人数が少ない、スタッフの負担が重いといった状態にある可能性も考えられる。お客様がスタッフを呼んでもこない、頼んだ料理がなかなかこない、お客様が帰った後もしばらくテーブルの上が片付けられない、テーブルが空いているのに新規のお客様を待たせている、といった状況だ。

「スタッフが足りず適切なサービスを提供がされていない」という状況は、いずれお客様の不満につながる可能性もある。そのため人時売上高は高ければいいのではなく、5,000円を目安にして、スタッフのシフトを組むのがおすすめだ。

ただし店舗によって人時売上高の基準は異なる。人時売上高の目安は5,000円だが、優秀なスタッフが揃っていれば、人時売上高が7,000円でも、8,000円でも接客に問題がない店舗もある。しかも現在、飲食店は人材不足なケースが多い。平均時給が1,500円や2,000円などに上昇することも考え、人材を育成するスキルを上げたり、ノウハウを構築するなどして、人時売上高を上昇させても接客に問題がないような店舗運営も目指していきたい。

Photo by iStock.com/DragonImages

そのほかに着目すべき数字

そのほか、どのような数字に着目すべきだろうか?

利益に関しては、まず労働分配率があげられる。これは粗利益(売上から原価を引いたもの)に対して、人件費がいくらかかるかを表したものである(人件費÷粗利益)。粗利益を用いているので、利益を意識した指標と言える。一般的には40%以下が望ましいと言われている。

労働分配率が43%を超えていると、人件費が利益を圧縮していると考えられ、人件費を下げるなどで労働分配率を改善することが求められる。

ほかにも平均時給(社員を含めた全従業員の平均時給)や人時接客数(従業員1人あたりの1時間の接客数)などもあるが、まずは人件費率・人時売上高・労働分配率をおさえておくとよいだろう。

さて今回は、人件費に関わる指標を紹介した。1つの指標だけでなく、複数の指標を活用しながら、店舗経営が健全に行われているかをぜひ確認してみてほしい。

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若林和哉

ライター: 若林和哉

株式会社パートナー経営企画・代表取締役。飲食店の勤務経験や中小企業診断士の資格を生かして、事業計画作成や資金調達の支援、フランチャイズ関連のWebページの執筆やセミナー講師などを務める。好きなお店は、ラーメン・カフェ・日本酒のおいしい居酒屋など。https://パートナー経営企画.com/