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『シンシア』『鮓職人 秦野よしき』など人気店が語る「無断キャンセル」の実態。効果的な予防策は?

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「昨年は70名の団体客が無断キャンセルした」ことを明かしたジャックポットプランニングの大島さん

キャンセルの抑止力に有効な手段は?

「ANAインターコンチネンタルホテル東京」の料飲サービスマネージャー塩治裕之さんは、キャンセルが発生した場合、ほぼ料金を受け取っていないという。それにはこんな事情がある。

「当日キャンセルは料金の100%請求というようなキャンセルポリシーはあるのですが、実態としてキャンセル料は取り切れていないことが多いです。キャンセル料金をいただくためには、メールや電話で連絡をとって、やりとりすることが必要ですよね。最終的にカード決済を行うまでの心理的負担や手間も結構なものなのです。『だったら他のゲストを呼ぶことを考えたほうがいいよね』ということになっていました。それは個人的には悪い習慣で、今後は改善が必要だと思います。とくに海外からシェフを呼ぶとか、クリスマスに開催する特別イベントなど、“絶対に外せないもの”に関しては、料金の事前決済を導入せざるを得ないと考えています。あと、メールではなく電話をかけて直接話すというのも重要な抑止力になると思いますね」

ジャックポットプランニングの大島さんは、キャンセルを完全になくすことは難しいとしながらも、「現場力を上げて、愛される店を作ること」がキャンセル防止に役立つと話す。

「結局モラルの問題ですよね。なので、各店舗の店長には『質のいいお客様がほしければ、お客様のことを思って、お客様の立場で営業しなさい』と言っています。先日、私自身がレストランの予約を取ったときに、店側から電話がかかってきたんです。確認の後に『明日はスタッフ一同、心から楽しみにお待ちしています。ぜひいらしてくださいね』と言われました。その一言があるだけで『絶対に行かなければ』という気持ちになりますよね。そういう言葉尻のテクニックをマニュアルに落としこんで、感情をこめて伝える訓練をさせています。細かいキャンセルは日常的にあるのですが、弊社としては、お客様と真摯に向き合い、現場力を上げることが近道かなと思います」

秦野さんも、自分自身の手があく15時、16時ごろではなく、会社員の仕事が終わる時間帯に確認の電話をし、「もしキャンセルになりましたら食材の無駄にもなるので」ということを正直に伝えて、理解を得る努力をしているそうだ。

それぞれが行っている対策方法についても語っていただいた

飲食業界に「事前決済」は定着するか?

予約客への電話連絡はキャンセル防止に有効な手段だが、一人ずつ連絡を入れるのは結構な手間が掛かる。『シンシア』石井さんはそこに労力をかけることの難しさについて触れた。

「『バカール』で働いていた頃は、僕とサービス担当と、アシスタントのほぼ3人で回していました。サービス担当は仕込みや掃除などの仕事の合間に、朝から晩までリマインドをする仕事をしていたんです。これが功を奏してキャンセルは少なかったのですが、それってすごく労力で。飲食業界はどこも人手不足という状況の中、そこに人員を割き続けるのは、無理があるのではないかと思うようになったのです。そこで、予約と同時にクレジットカード情報をお預かりするシステムを『テーブルソリューション』で導入しました。この決断は僕にとって勇気のいることでしたが、誰かが実際に使って、その意義を発信しなければ、現状は変わらないと思ったんです。今年の初めからこのシステムを使っていますが、事前にカード情報を入力していることで『気をつけなくちゃ』と注意していただけるので、かなりキャンセルの抑止力になっていると感じます。カード情報の入力や事前決済が当たり前になれば、僕らも赤字にならないし、お客様との関係も壊れない、双方にとってより良い形になれるのかなと思います」

塩治さんも飲食業界全体に事前決済システムが広がることには賛成のようだ。

「今は買い物したり、飛行機やライブのチケットをとったりするときにクレジットカード番号を入力することはほぼ当たり前ですよね。そんな世の中でなぜ飲食業界だけが導入していないのか。そこにそろそろ疑問を持たないといけないのかなと思います。アマゾンで買い物するように、『レストランを予約するならカード情報を登録しないといけないよね』という常識が通用する日が、遅かれ早かれ来ると思います」

大島さんも、「数十年前はインターネットが普及するなんて誰も思わなかったが、今では誰もが使っている。飲食店の事前決済も、業界全体で進めていくことで違和感なく浸透していくのではないだろうか」と話した。秦野さんはヨーロッパでは一般的になりつつあるデポジットを話題にした。

「事前決済というとキャンセルしてもお金取られるのかなと誤解する方もいるかもしれません。予約時の対策には、事前決済以外にも、予約金額の一部を保証金として預かる『デポジット』や、予約と同時にカード情報をお預かりする『与信押さえ』といったやり方もありますが、これらすべてで、決まった日までにキャンセルが入れば全額をお返ししています。そうやって飲食店の予約時にもカード情報を預ける文化を浸透させるのが大切だと思います。僕の中では、お客様の前で鮨を握るのはショーの公演と同じなんです。もしショーのチケットを取って、当日観に行かなかったら払い戻しできませんよね。食文化をそれくらいのレベルまで引き上げれば、『予約をキャンセルするだけで人の気持ちをないがしろにしているんだよ』ということを意識づけられるんじゃないかなと思います」

大島さんの言うように、現場力を上げることで客との信頼関係を築き、無断キャンセルが起きにくい状況を作っていくのも一つの手段。その上で、まめに電話やメール連絡を入れて「うっかり」を防止する。さらに、予約と同時に決済するなどの仕組みを取り入れれば無断キャンセルの大きな抑止力となるだろう。今回のトークセッションでは、予防する意識を持ち、しっかりと手を尽くせば無断キャンセルは必ず減らすことができることを教えてくれた。

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三原明日香

ライター: 三原明日香

編集プロダクションに勤務し、フリーライターとして10年以上活動。ふとしたことから労働基準法に興味を持ち、4年間社労士の勉強に打ち込む。2014年に試験に合格し、20年4月に開業社労士として独立した。下町の居酒屋で出されるモツ煮込みが好物。