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「いつかは故郷で」。京都から福岡へUターン、『捏製作所』の移住ストーリー

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季節の食材を使い、オリジナリティあふれるつくねを生み出している

営業時間を短縮し、時間や心にゆとりを

新しく福岡で掲げた看板も、京都のお店と同じ『捏製作所』。だが、営業時間は16~23時の7時間に短縮。頑張り過ぎることなく、精神的なゆとりもできた。それは店づくりにも影響している。

「仕込みの時間がきちんと取れるようになって、しっかりと調理に向き合えるようになりました。九州は食材が豊富。海も山もあるし、鮮度がいいものが安く手に入るんです。そのため京都のお店では、つくねのラインナップを固定していましたが、福岡に来てからはその日仕入れた食材で作る日替わりのつくねを提供できるようになりました」

また、足を運ぶ人にも土地柄が表れるそう。

「京都のお客さまは、ニューオープンの店だからといってもすぐに足を運ぶ人は少ないんです。周りの人から評判を聞いて、徐々に徐々に来てくれるようになって、認めてもらえる。でも福岡は反対で、新しいものが好き。何のお店か分からなくても入ってきてくれる。なかにはうどん屋だと思って入ってきたお客さまもいるんですよ(笑)。人と人との距離の近さもあって、最初に受け入れてもらいやすい。一方で、飽きやすい人も多いから根付くことは難しいと感じることもあると思います」

店では、各地から選りすぐりの純米酒を燗で用意。これは、自分たちが好きな燗酒を知って欲しいという思いから

外を見てきたからこそ思う「福岡に新しい文化を根付かせたい」

京都から福岡へ、つくねを柱に同じ看板を掲げ続けてきた二人に今後の展望を尋ねると、「福岡に新しい文化を根付かせたい」という答えが返ってきた。そう思うのも、一度福岡を離れたからこそ感じたものだという。

「せっかく福岡に帰ってきたのだから、福岡ならではの商売をしたい。例えば、お酒。福岡の人って、焼酎をよく飲むけれど、よくよく聞いていると焼酎が特別好きというわけではない。なんとなく、安くて手に入りやすいから飲んでいるという人が多い。でも“とりあえず”ではなくて、文化としてお酒を楽しむことを広げられたらと思っているんです。京都の人は、“本質を突く”人が多く、お酒の楽しみ方を知って生活の中で楽しんでいる。そんな風に、今の福岡にはないけれど、生活スタイルや人生を変えていけるような文化を広げていきたいですね」

そう熱く話す淳思さんはさらに続ける。

「福岡で暮らす人は、本当に福岡が好きで、でもちょっと盲目的になっているところもあるんじゃないかな。一度外に出たからこそ、そういう一面も見えてきました。『福岡名物って何?』って聞かれても、もつ鍋と水炊きと豚骨ラーメンくらいで。でもそれって、住んでいても日常ではなかなか食べないじゃないですか。だから、もっと生活に根付く福岡らしいものを作りたいって思っているんです。もうつくねはいいかなって。僕たちにとって、“つくね”は手段であって目的ではないから」

福岡から離れた時、漠然とあった「いつかは故郷へ」という思い。とはいえ、当時の菅原さんはここまで熱い思いを持って帰郷することになるとは考えていなかったのではないだろうか。離れていたからこそ、客観的に見えるものがある。Iターン・Uターン、いずれの移住者にとっても、その土地にない新しい価値観を持った客観的な視点は大きな武器になるに違いない。

京都での開業以来、その味を多くの人に評価される『捏製作所』は、すでに成功した一つの形となっているが、その進化はまだまだこれから。新しい福岡の食文化の発信拠点として、新たな一歩を踏み出している。

菅原夫妻の今後の展開も目が離せない!

『捏製作所』
住所/福岡市早良区藤崎1-14-5
電話番号/092-833-5666
営業時間/16:00~23:00
定休日/木曜、月1回不定休

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戸田千文

ライター: 戸田千文

広島・東京を中心に活動するフリーランスの編集・ライター。これまでにグルメ冊子や観光ガイドブック、町おこし情報誌などの編集・執筆を担当。地方の魅力を首都圏に発信する仕事をするのが夢。おいしい地酒を求め、常にアンテナを張り巡らせ中。