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M&Aで始める飲食店開業。M&Aの最終関門は「家主」と「従業員」交渉

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スタッフが残ってくれるよう、売主・買主の相互協力が必要

成約事例②は、昨今の人材採用難がきっかけとなり、M&Aでの譲渡を考え始めたのが入り口となります。売主は徐々に不採算店舗の縮小を行い、最終的には4店舗の居酒屋を経営していました。そのうち業績の良い同屋号の2店舗は、業績もよかったため事業譲渡で切り離し、その譲渡代金で借り入れの返済を進めつつ、店舗数の縮小を目指しました。

成功事例②

一方買主は、M&Aを活用しながらの事業拡大を成長戦略に盛り込み、同時に海外での出店準備を進めていました。ちょうど海外での出店業態候補として、当案件と同様の業態を考えていたこと。店舗視察の際に現場のスタッフの雰囲気がとても良かったことから、検討を進めていきました。

売主と買主が条件合意した際には、最終譲渡契約書を締結いたします。成約事例②では、事業譲渡スキームでしたので、事業譲渡契約書の締結ということになります。飲食業界のM&Aのみならず、店舗ビジネスには共通することですが、いくら売主と買主が条件合意したところで、店舗の賃貸主に貸借人が代わる許可を取り付けなければ正式な成約とはなりません。ここが最大のポイントです。

「最終譲渡契約書の締結」→「賃貸人の承諾」→★成約★→「従業員への告知」といった順序で進めていきますので、賃貸人の承諾を得るための段取りや伝え方、想定される賃貸人の要望に対する事前準備など、最後は非常にナーバスな状態で進めていかなければなりません。

そうした状況で、成約事例②も、2店舗の各家主にご理解・ご協力をいただき、無事成約となりました。しかしながら、ここで想定外のことが起きます。譲渡対象となる従業員の多くが買主への転籍を拒否したのです。

当然M&Aでのオーナーチェンジのタイミングは、相手先がどこであれ、従業員が退職を考える一つのきっかけになります。ですから、そこを全く想定していなかったという訳ではありません。しかし今回のケースは、従業員の前オーナーに対する反発心が生んだ行動でした。

画像素材:PIXTA

「従業員が全員残る前提で買います」はできる? できない?

答えはできないです。成約事例②では、買主に落ち度は全くありませんが、スタートにとても苦労をさせてしまいました。もちろん従業員個々の考え、働く意思の自由がありますから、我々M&Aアドバイザーがコントロールできることでもないのですが、それでも「もう少し良い状態で引渡しができる方法はなかったのか?」と、とても考えさせられる案件でした。買主としてもこの案件を前向きに進めたきっかけが、スタッフへの好印象が大きかっただけに、ショックも大きかったです。

よく新規案件を案内した際に、「従業員は残りますか?」というご質問をいただきます。正しい回答としては、「おそらく残ると思いますが、そこは買主がどのような会社かにもよりますし、従業員告知をしてみないことには何とも言えません。ただ売主と協力して、従業員が全員残ってくれるように最大限丁寧に説明し、前向きに捉えていただけるよう、買主にも協力していただきます」になります。

飲食業界のような店舗ビジネスでのM&Aでは、既存の従業員がうまく引き継げるかどうかが、言うまでもなく事業価値を左右する重大事項です。しかしそこは、最後出たとこ勝負の要素を秘めていることも事実です。

次回は連載最終回となります。普段はこのようにお客様の会社や事業の売買をコーディネートすることを生業としていますが、実はこの連載期間中に、11年前に創業した自社の株式を100%、東証一部上場企業である株式会社シンクロ・フードへ譲渡しました。次回は、僭越ですが、書ける範囲で私自身の株式譲渡経験に関して、語らせていただこうと思います。

※雑誌「ビジネスチャンス」2018年10月号より転載

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『飲食店ドットコム ジャーナル』編集部

ライター: 『飲食店ドットコム ジャーナル』編集部

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