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無断キャンセル「No show」で59歳の男を逮捕。飲食店には死活問題、泣き寝入りせずに行動を

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系列4店舗含め5店舗へ虚偽の予約の悪質さ

今回、59歳の被疑者が偽計業務妨害罪の容疑で逮捕されたのは、とても悪戯などではないと判断されたからにほかならない。被疑者は『のど黒屋 銀座数寄屋橋店』以外にも、運営する株式会社一六堂(本社:東京都中央区、代表取締役:柚原洋一)の系列店4店に6月28日に8~20人分の団体予約を入れていたのである。

捜査関係者によると、一六堂から被害届けが出されたために捜査に入った。5つの予約が全て同じ偽名が使われ、全て被疑者の携帯電話から連絡されていたこともあり、逮捕に至ったという。系列の5店舗に全て同一の日に予約を入れたということから、最初から行くつもりがない虚偽の予約だったのは間違いない。なお、株式会社一六堂に取材を申し込むと「現在、捜査中の案件であり、コメントは控えたい」とのことであった。

画像素材:PIXTA

過去には無言電話970回で業務妨害の例も

この先、被疑者は起訴され、刑事責任を追及されることになる。果たして刑事責任はどのようなものとなるのであろうか。過去の判例を調べても似たような事例は見当たらないが、東京高裁昭和48年(1973)8月7日の判決が参考になりそう。これは新宿区の中華料理店に昭和47年(1972)6月3日から同年8月25日までの間、約970回に渡り無言電話をかけ、しかも受話器を置かずに通話状態にしたままにして、出前注文を受けさせないようにしたという偽計業務妨害の事案である。

被告人は1審東京地裁で懲役1年執行猶予2年の判決を受け、控訴したが東京高裁は棄却。判決が確定している。本件では被害者との示談が成立するか、被疑者の前科や、犯行の態様、反省しているかなどで量刑は大きく変わるので何とも言えないが、現在分かっている範囲では、昭和47年の事例を大きく上回る量刑は考えにくい。

No showでも「うっかり忘れてしまった」という場合には、民事責任はともかく、刑事責任を問われる可能性は低い。それは業務を妨害する故意の認定が困難だからである。しかし、無断キャンセルで何の連絡もしなければ、論理的には偽計業務妨害罪は成立しうる。飲食店としては、悪質な場合には警察に相談し、場合によっては告訴(刑事訴訟法230条)すべき。警察は告訴を受けたら「速やかにこれに関する書類及び証拠物を検察官に送付しなければならない」(同242条)から、何らかのアクションを起こしてくれるはず。今回の事件から学び取れることがあるとすれば、卑劣な犯罪に泣き寝入りはすべきではないということである。

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松田 隆

ライター: 松田 隆

青山学院大学大学院法務研究科卒業。ジャーナリスト。スポーツ新聞社に29年余在籍後にフリーランスに。「GPS捜査に関する最高裁大法廷判決の影響」、「台東区のハラール認証取得支援と政教分離問題」等(弁護士ドットコム)のほか、月刊『Voice』(PHP研究所)など雑誌媒体でも執筆。ニュース&オピニオンサイト「令和電子瓦版」を主宰:https://reiwa-kawaraban.com/