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神楽坂『タルタルギーナ』、禁じ手テイクアウトで売上維持。店の存続かけて闘った2か月

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『トラットリア ラ・タルタルギーナ』のオーナーシェフ・濱崎泰輔さん

新型コロナ禍の中で「一時休業」という選択をした飲食店は多い。しかし、神楽坂にある『トラットリア ラ・タルタルギーナ』では社員にもアルバイトにも給料を全額払いたいと考えた。それを実現するには営業を続けるしかない。

そこでオーナーシェフの濱崎泰輔さんは、顧客を飽きさせず、店離れをさせないために新しいテイクアウトメニューを矢継ぎ早に投入。南イタリアの料理が売りのトラットリアなのに、南は南でも南インドのカレーを出したかと思えば、ナポリタンもメニューに掲げた。リストラどころか、賃金カットもせず、コロナ禍を凌いだアイデアマンな濱崎シェフの秘策を紹介する。

【注目記事】新型コロナの影響により飲食店の8割が売上減。「テイクアウト」の販促術を徹底リサーチ

休業か? それとも営業継続か…

アントニオ猪木の「元気があればなんでもできる」ではないが、店を開けていればなんでもできる。けれど、店を締めたら何もできない。

「営業自粛し、休業補償を申請した店主は多いと思います。でも、その金がいつ入金されるのかわかりません。うちは休業補償を当てにせず、営業を続けることにしました」

休業が正解だったのか、営業継続が正しかったのか。その答えは誰にもわからない。しかし、「スーパーがあれだけ混んでいて、パスタが売り切れているのだから、レストランなら何かを提供できるはずだ」と濱崎シェフは考えた。3月末からテイクアウトをスタート。ピッツァ(1000円~)、パスタと前菜のセット(2000円~)、パスタと前菜にメインを加えたセット(3500円~)。この3つをメニューに掲げた。

料理の話をする前に、この店がある場所を説明する必要がある。神楽坂駅から徒歩7分ほどなのだが、神楽坂通りから奥に入った、“裏神楽坂”と呼ばれる住宅街に佇む一軒家レストラン。周辺は一方通行が多く、通りすがりの人が入るような店ではない。にもかかわらず2014年のオープン以来、濱崎シェフの南イタリア料理を食べようと予約がとれない店に成長した。そこにコロナが襲った。

店は路地裏にひっそりと佇む

以前からピッツァのみテイクアウトを受け付けていたが、あまり浸透していなかったことから猛省。テイクアウトメニューを書いた紙を店先に掲げ、SNSでも告知したところ注文が殺到した。

「大々的にテイクアウトをしていなかったこともあり、物珍しさで頼んでくれる人が多かったのかもしれません。これまで満席で食べに来たくても入れなかった人や常連客の問い合わせがありました」

週末になるとシェフ自身が驚くぐらい注文が舞い込んだ。パスタと前菜のセットを人数分頼むだけでなく、大半の人がピッツァもオーダーした。2人分だと客単価は5000円。

「ステイホームで健康のために店の前をウォーキングする人が多かったんです。しかも、神楽坂周辺の飲食店は営業自粛する店が多かったこともあり、テイクアウトの注文がうちに集中したのかもしれません。しかし、当初は調子が良かったのですが、緩やかに売上が減少していきました。自分が買う立場だったら1000円は高いかも。パスタとサラダのセットを800円で出すことにしました」

パスタは5~6種類の中から選べ、女性に人気のサラダ付き。これが大ヒット。800円にした理由はいくつかある。コロナ前、神楽坂周辺のランチの価格帯を調べたら1000円が多かった。でも、ここは裏神楽坂。賑やかな神楽坂と同じ価格で勝負しても勝ち目はない。近所で人気の中国料理店が800円のテイクアウトをやっていたこともあり、同じ価格にした。これが功を奏し、客が戻ってきた。1日に40食出た日もある。コロナ禍でイートインは開店休業。一枚看板のテイクアウトに望みを懸けるしかなかった。

『ラ・タルタルギーナ』の店内

店で出そうとは考えなかった、禁じ手のテイクアウトを発売

『ラ・タルタルギーナ』には名物料理が複数存在する。そのひとつが濱崎プリンだ。

「このドルチェの命名者は、『セシル エリュアール 神楽坂』のオーナーシェフパティシエだった鈴木祥仁さんです。ときどき食事に来ていただいていたのですが、うちのプリンを気に入ってくださり、『濱崎プリン』と名付けていただきました」

この栄えある濱崎プリンをテイクアウトで販売しようと思い、菓子製造許可を取得。飲食店の中には酒類のテイクアウト販売に必要な期限付酒類小売業免許を取得した店舗もあるはずだ。『ラ・タルタルギーナ』では、同免許のほか、デザートのテイクアウトに不可欠な菓子製造業許可と、おかずの販売に必要な惣菜製造業許可も申請した。期限付酒類小売業免許の申請は無料だが、菓子製造業と惣菜製造業には申請費用が必要。『ラ・タルタルギーナ』がある新宿区の場合、前者は16800円、後者は25200円がかかる。その申請費用も別途申請すれば補助されるのでそれも申請した。

裏神楽坂の住宅街にあるこの店では、わずかひと月の間に弁当やピッツァだけでなく、ドルチェの濱崎プリンやティラミスなどもテイクアウトメニューに加えた。いつも同じメニューでは客が離れていく。あの手この手で客を飽きさせないための工夫が、新メニューの投入だった。

「考えられるアイデアをやりきりました。でも、神楽坂にはいろいろな店があり、他の店に流れる人が出てくるはずです」

「このままでは売上が落ちていく」とにらんだ濱崎シェフは次の手を打った。

「自分が大好きな南インドのカレーを作ることにしました。自分ならどのレベルのカレーを作れるのか。そう思い、いろいろなスパイスを買い込み、何度も試作。ピッツァの生地をパン状にして焼いたピッツァパーネをナンの代わりにカレーに付けて1300円で販売することにしました」

大ヒットしたカレー

SNSで告知したら、またまた大ヒット。イタリアレストランがどんなカレーを出すのか興味を覚えた人も多かったはずだ。

「新しいメニューをSNSに載せると必ず反響があります。僕が予想していた以上に喜んでくれる方が多いんです。カレーの次に考えたのがナポリタン(笑)。あえてやってみました」

ナポリタンはこれまで二番手が賄いに作ってきた。それとは違うレシピを濱崎シェフが考案。玉ねぎ、ピーマン、ケチャップに加え、発酵バターを入れたことで味に深みが出たというのだ。

「昔食べた味ではなく、プロの味。スタッフが喜んで食べてくれました」

麺は、ラーメンの麺で有名な開化楼にやや太い低加水麺を特注。800円のサラダ付きパスタに新メニューとして追加したところ、1日に30食出る日もあるぐらい人気商品になった。

「ちょっとくだけた料理としてナポリタンを考えました。本気で美味しいナポリタンを作りたかったし、みんなが思っている以上のナポリタンができたと自負しています。そもそもケチャップ味のパスタなんてありえないと自分が思っているなら、絶対に出しません(笑)」

カレーもナポリタンもイタリアレストランからすれば“禁じ手”なのかもしれない。けれど、濱崎シェフからすれば、客を取り込んでおくために不可欠な秘策だった。

「店で生涯出すはずのなかった料理を提供することにしたのは、コロナ禍で悩んでいたから。テイクアウトを充実させたのは、うちにとって決してマイナスではなかったと思います。ナポリタンとカレーは、今後もテイクアウトの裏メニューとして残すつもりです」

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中島茂信

About 中島茂信

CM制作会社を経てライターに。主な著書に『平翠軒のうまいもの帳』『101本の万年筆』『瞳さんと』『一流シェフの味を10分で作る!男の料理』『自家菜園のあるレストラン』。『笠原将弘のおやつまみ』の企画編集を担当。「dancyu web」や「ヒトサラ」、「macaroni」などで執筆中。