神楽坂『タルタルギーナ』、禁じ手テイクアウトで売上維持。店の存続かけて闘った2か月
クラウドファンディングと「未来のチケット」を販売
コロナ禍だからこそ挑戦したのは料理だけではない。BASEとクラウドファンディングにもチャレンジした。前者は、インターネット上にECサイトを開設するサービスだ。このサービスを活用し、食事の前売りチケットを販売することにしたのだ。2年間有効の前売り食事券を購入してもらうことで、『ラ・タルタルギーナ』を支援してもらおうと考えた。同サービスを4月1日に立ち上げたところ、6月11日現在で30万円が集まった。そして、BASE開始から1週間ほどでクラウドファンディングもスタート。
「うちに来たくても来られない人にBASEで『未来のチケット』を買ってもらうことにしました。でも、クラウドファンディングだけはやりたくなかったんですよ。経営危機のイメージを与えかねないと思っていたし、集まらなかったら恥ずかしいじゃないですか(苦笑)」
スタッフの中にクラウドファンディングに詳しい人がいたこともあり、どれだけの人が支援してくれるのか試してみることにしたのだ。最初は少人数だったが、徐々に支援者が増えていった。スタートして1か月で目標額の100万円に達した。手数料などが引かれ、85万円が入金された。集まった支援金は5月の売上にカウントされ、税金も取られた。
「クラウドファンディングは、支援してくれた方の名前がわかります。それを見ると常連客が大半でした。嬉しかったですね」
集まった85万円の使い道は考えていない。というか使うつもりもない。『ラ・タルタルギーナ』の存続を望む人が大勢いることを確認できた。それこそが濱崎シェフにとってなによりも代えがたい価値があった。
営業を続けたのはスタッフに給料を満額払い、店を存続させるためだった
営業自粛しなくて良かったかどうか、改めて尋ねた。
「テイクアウトを喜んでくれた人がたくさんいました。『ここのテイクアウトがあるから嬉しいんだよね』と言われたことが、一番嬉しかったですね(笑)。昨日も老夫婦のご主人が『家内に楽をさせたいから』と言ってカレーを持って帰ってくださいました」
コロナ禍でも営業を続けていることを大勢の客に認知してもらえた。もし休んでいたら、営業再開しても客が戻ってくるまでに時間がかかったのではないかというのだ。
「緊急事態宣言が解除されても2か月間営業自粛していた店は、常連客がすぐに戻ってくれないのではないでしょうか。店を閉じていた間、他所へ流れてしまった常連客もいるはずです。うちが営業を続けたことは、店のためにもスタッフのためにも良かったと思っています」
裏神楽坂にある一国一城の主は、自分の給料を100%カットしてでもスタッフに給料を全額払うことしか頭になかった。そのためには店を続けるしかなかったのだ。
「売上が立っていないのに、給料を満額払うのは経営者として間違っているし、馬鹿かもしれません。でも、店を継続させるためにスタッフは、一所懸命に働いてくれました。コロナの感染が怖い中、いろいろなことに挑戦してもらったことは、給料を100%払うに値すると思っています」
6月13日、東京アラートが解除され、休業要請がステップ3に移行。この日、濱崎シェフは営業時間をコロナ前に戻すことにした。そしてこの日、9名の団体客がディナーに足を運んでくれた。
「団体のお客様は3か月ぶりでした(笑)」
その翌週末も5~6名の団体客があった。けれど、コロナ前毎週のように来てくれていた客の中には、いまもテイクアウトのみの利用者もいるという。
「移動自粛が全面解除されましたが、今後はコロナが怖い人とそうでない人の二極化が進むと思っています。コロナが怖い人は、今年いっぱいイートインを敬遠するでしょう。食べに来たくても来られないお客様のために、今後もテイクアウトを続けます」
カレーとナポリタンに続くヒット作が生まれるかどうかはわからない。しかし、仮に第2波が来たとしても、手を替え品を替え、顧客を飽きさせないアイデアをひねり出し続けたこの人ならば、また新しいことをやってくれるに違いない。客もスタッフもそれを期待している。
『トラットリア ラ・タルタルギーナ』
住所/東京都新宿区赤城下町33-24
電話番号/03-6265-3146
営業時間/11:30~14:30(土日12:00~15:00)、17:30~24:00(日~22:30)
定休日/月曜
席数/36席を18席で営業中