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飲食店3店舗が語る“禁煙化”がもたらす長期的なメリット。売上アップに成功の店舗も!

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2020年4月より全面禁煙に踏み切った新宿『フリゴ』。店の入口には「全席禁煙」の案内が

2020年4月1日に施行された「改正健康増進法」に伴い、飲食店は原則屋内禁煙となった。しかし、2020年4月1日時点で営業しており、資本金または出資の総額が5,000万円以下で、店舗の客席面積が100平方メートル以下であれば、店内の全部または一部を喫煙可能とできる経過措置が取られている。そのため、「改正健康増進法」施行から2年が経過した今も、喫煙可能な飲食店は数多く存在する。

禁煙化で働く人の健康を守れ、かつ来店客の過ごし方にも嬉しい変化が

「お酒と喫煙って、やっぱり切り離せないと思うんですよ」と打ち明けるのは新宿駅南口、甲州街道沿いでベルギービール専門店『フリゴ』の店長を務める荒木健一郎氏。お酒が主体の店ということもあり、以前は全席喫煙可能で、来店客の3~4割が喫煙者だった。アイリッシュパブという雄々しいイメージ、そして客層は30代後半~50代の男性が多いというのも喫煙者の割合が比較的高かった理由かもしれない。週末ともなると、タバコの吸い殻がトマト缶いっぱいになるほど喫煙者が多かった。しかしここ5〜10年ほどで、客の声にも変化が見られたという。

『フリゴ』の店長を務める荒木健一郎氏

「『横の人がタバコを吸っているからこの席は嫌です』とか『タバコの臭いが漂わない場所はどこですか』という副流煙を嫌う声が結構あって」と喫煙に対する懸念の声が増えてきていたと話す。さらにこういった声は働くスタッフからもあった。「カウンターの人がタバコを吸っているから、その人の前に立ちたくない」「タバコの臭いがつくのが嫌」などの意見が増え、荒木氏は段々と禁煙化について考えるようになったという。

「ここ数年で喫煙者の数自体が減っているという実感もあり、禁煙化のタイミングを窺っていて。2020年4月の法律施行を機に禁煙化に踏み切りました。同じように法律の施行があったから、禁煙に変えられたというお店も多いと思います」

禁煙化にあたってはSNSでの告知のほか、店内や店外のポップで「全席禁煙」と周知

気になるのは、禁煙化による客入りや売上の変化だ。とはいえ禁煙化してすぐに緊急事態宣言が発出されたため「正直わからない」と話す。喫煙者からの反応について伺うと、

「『タバコが吸えなくなったんですか?』と聞かれることもあって。そういう人たちの1〜2割は喫煙できないと知って帰っていきますね。嫌味っぽく『もう来ない』と言われたこともあります。これまで2〜3杯お酒を飲んでいた人が1杯飲んで『吸えないからほかのお店に行く』ということもありました」

と、やはり懸念していた事態も少なからず起こっているという。実際、店から徒歩2〜3分の場所には全面喫煙可能な飲食店もあり「タバコを目的としている喫煙者はそちらに流れているのではないか」との見方を示す。

そんな喫煙者からの声がありつつも荒木氏は「禁煙化して良かった」と、今回の自身の決断に納得感を示す。その理由について尋ねると「やっぱりタバコの煙に邪魔されることなく、もっと純粋に食事やビールを味わってもらいたい」という思いがあった。

実際、禁煙化以前より来店していた非喫煙者の方が頻繁に訪れるようになったり、滞在時間が延びたり、よりよく使ってもらっているという実感があると話す荒木氏。働くスタッフからも「快適に働けるようになった」という声が聞かれ、改正健康増進法の目的であった「働く人の健康を守る」を達成できているようだ。

店内にはベルギーを中心にヨーロッパのビールを常時160種類並び、専用のコースターとグラスでビールが提供される

禁煙化でファミリー層が増え、客単価や売上がアップした飲食店も

禁煙化に踏み切ったことで、売上がアップしたという飲食店も少なくない。大阪をメインに、全国で75店舗を展開する1973年創業のお好み焼専門店『千房』グループも、客単価や売上がアップした飲食店グループの一つだ。代表取締役社長の中井貫二氏は次のように話す。

「禁煙化することで売上の減少を懸念していましたが、こちらが心配していたほどの売上や客足減少はなく。むしろファミリー層の利用が圧倒的に増え、店舗によっては客単価や売上が上がりました」

千房株式会社・代表取締役社長の中井貫二氏。取材はオンラインで実施した

『千房』グループでは全店舗で禁煙化したところ、1日あたりの売上が平均で4.9万円増加(17.5%増加)しており、特に高級路線の店舗で売上の増加が大きかったというデータが出ている。お好み焼きと鉄板焼のステーキハウス『ぷれじでんと千房』やお好み焼と創作鉄板料理を提供する『千房エレガンス』など高級路線の店舗で売上増加が顕著だという。

この理由について「タバコの煙を気にせずゆったりできる環境整備ができたことで、滞在時間と注文数がアップしたのではないか」と中井氏は推測する。

今でこそ売上減少などの懸念点が払拭され、順調な経営を行う『千房』だが、当初社員からの禁煙化に対する反発は大きかったという。

「社員からは『禁煙化したら、半分以上のお客様が来なくなってしまいます』と断言されたりもして。従業員自体の喫煙者も多く、なかなか理解を得るのに時間がかかりました」

そこで中井氏は、禁煙化を求めているという消費者の声や、いろいろな飲食店経営者の方に伺った禁煙化によるメリットを社員へ伝え、理解を得ていった。

「世の中的に『タバコを吸っている人がいるお店に行きたくない』『タバコを吸っている人の隣に座りたくない』という声もありましたし、そういったニーズに応えていくのは当然かな、と。特に『串カツ田中』さんが全店禁煙化されたことについては世間の反応も大きかったので『企業のブランドイメージを保つためにも禁煙化は有効だ』と一つの説得材料にしましたね」

徐々に社員の理解を得て、8年ほど前から段階的に店舗の禁煙化を進めていった中井氏。社員にヒアリングし、ファミリー層やインバウンドの来店客が多く、禁煙化の影響が少なそうな店舗から段階的に禁煙化を始めた。

『千房』の店内。テーブルには「禁煙」の案内が(写真提供:大阪医科薬科大学 伊藤ゆり氏)

その後2020年4月、全店舗を禁煙化。「法改正がなかったら舵を切れなかったかもしれません」と中井氏が話すことから、「改正健康増進法」施行が禁煙化の後押しとなったことも窺える。

禁煙化したことで「働くスタッフの観点からも、間違いなく良かった」と断言する中井氏。アルバイト従業員は20代前半の女性が多いということで、禁煙化に喜ぶ声が多く聞かれるという。

「弊社ではスタッフとお客様のコミュニケーションを大切にしており、“お好みケーション”という独自の言葉を使っています。お客様の目の前で、お好み焼きを焼き上げるときに生まれる会話もその一つ。しかし、吸排気システムがどんなに充実していたとしても、喫煙者の目の前で調理する従業員を副流煙から守ることは難しかったんです。そういう点でも今回禁煙化したことで、安心して従業員とお客様が“お好みケーション”できるようになったのではないかと感じています」

喫煙者からの反応も気になるところだが「世の流れだからしょうがないよね」と一定の理解を示す人が多いという。今後さらに中井氏は従業員の健康を守る「健康経営」を標榜し、会社内での禁煙化も進めたいと話す。

「個人的にタバコの灰がついた手で作られた料理を食べたくなくて。5年前からバックヤードは禁煙にしていますし、タバコを吸った後は徹底的に手を洗うよう厳しく伝えていますが、従業員の健康を守るためにも会社全体で禁煙化を後押ししていきたいですね」

「喫煙可能でも禁煙でも客足は変わらない」感染症対策も後押しとなり禁煙化

禁煙化に転じた経緯は「法改正を機に」という飲食店が多い中、異なる理由で禁煙化に踏み切った飲食店もある。大阪・高槻で1991年に創業したオーセンティックバー『福田バー』だ。

「大阪府から喫煙者は店内の一か所にまとめるよう要請があり、新型コロナウイルス感染の危険性が高まると感じ、全面禁煙に踏み切りました」と、感染症対策の一環で禁煙化したと店主の福田豊氏は明かす。実際、店舗の入口には「コロナ対策のために禁煙しています」という張り紙が掲示されている。

「いずれは禁煙にせなあかんと思っていたのですが、周りに気を遣いながら吸ってくれる常連さんもいて、なかなか踏み切れず。とはいえお店の構造上分煙も難しいし、タバコの煙が非喫煙者の方に行かないよう気遣うのも嫌で。今回のコロナ禍を機に2021年11月に全席禁煙にしました

大阪・高槻のオーセンティックバー『福田バー』の店主・福田豊氏。取材はオンラインで実施した

オーナーからは「儲からないし、禁煙は反対」と言われたそうだが、ギャルソンやバーマンなど現場のスタッフからは「禁煙に賛成」という声が聞かれ、後押しとなったという。

禁煙化と合わせ、アクリル板やビニールシートを設置するなど、感染対策も徹底。完全禁煙の飲食店は、こうした感染症対策に対しての自己評価も高く、自信を持ってお客さんを迎え入れているという見方もある。

バー業態は喫煙可能な店が多い中、禁煙に踏み切ったことでデメリットはなかったかと尋ねると「禁煙にする前ぐらいから喫煙者も2〜3割に減っていましたし、特になかったです」と福田氏。

「タバコを吸う人とか、たくさん飲んで騒いだりする人の方がお酒も頼むので、禁煙にしたら売上はちょっと減るだろうと思いましたが、別にそんなのいいかなって。実際、禁煙にしてから『吸えないならほか行くわ』っていう人もいましたが、そういう人は別に来てもらわなくていいかな、と。もしお店に本当に来たいなら、1~2時間くらい喫煙を我慢してくれると思いますので」

禁煙化後の客足も気になるが「タバコを吸う人がいっぱいいたら、吸わない人が来なくなるので、結局喫煙可能でも禁煙でも客足は変わらないと思う。サービスするならマナーの良い人たちにしていきたい」と福田氏。その真摯な姿勢は常連にも伝わっているのか、マナーの良い喫煙者は禁煙になってからも来店しており、外の喫煙所でタバコを吸うなどしてお店では喫煙していない。

禁煙化はスタッフからも評判だ。「以前より快適そうに働いていますね。喫煙可能な時代は、スタッフがマナーの悪い喫煙者に注意しなくてはいけませんでしたが、そういったトラブル自体減ったので、スタッフの負担も減ったと思います」と禁煙化に伴い、店の風紀も良くなったと話す。『福田バー』の一連の対策は、感染症や受動喫煙から従業員や来店客の健康を守るだけでなく、トラブルを防ぎ、お店で過ごす人たちに安心・安全に過ごしてもらうための心がけにも思えた。

『福田バー』の店内。アクリル板を設置するなど感染症対策も徹底(写真提供:大阪医科薬科大学 伊藤ゆり氏)

禁煙化は長期的視野で見て、ブランドイメージの向上、売上アップなどに繋がる

禁煙化したことでロイヤリティの高い顧客の集客に繋がったり、客単価や売上アップに成功したり、飲食店のブランドイメージを向上させることができるなど、今回の取材で意外と見えていなかった禁煙化のメリットが明らかになった。

特に顧客だけでなく従業員の健康を守ることは、長く安心して働いてもらうために経営者として必要な視点だろう。また、受動喫煙対策としてだけでなく感染症対策の側面からも禁煙化は有益のようだ。このほかにも禁煙化した飲食店のインタビューをまとめたWebページがあるので、気になる方はぜひチェックして欲しい。

■“屋内完全禁煙”飲食店の検索サイト「ケムラン」 -ケムラン掲載店の禁煙化のヒント集-

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[提供・協力]大阪医科薬科大学 医学研究支援センター 医療統計室 伊藤ゆり
屋内完全禁煙の美味しい飲食店を応援する会 Quemlin【ケムラン】

※この記事は厚生労働科学研究費補助金 循環器疾患・糖尿病等生活習慣対策総合研究事業「喫煙室の形態変更に伴う受動喫煙環境の評価及び課題解決に資する研究」班(研究代表者・大和 浩)の研究の一環として制作されました

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アントニオ 福岡県 その他 既存店舗なし
人口の8割は吸わない人です。私のように元喫煙者は少しでもタバコの臭いがするお店はNGです。店内の禁煙は当たり前、出入口にも灰皿を置いて欲しくないです。厨房の換気扇が室内を陰圧にするので、出入口で喫煙されるとドアから入ってくるからです。すべてのお店が、すかいらーく、ロイヤルホストのように敷地内禁煙にすることを希望します。
2022年06月16日 14時02分16秒
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ライター: 『飲食店ドットコム ジャーナル』編集部

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