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月商200万円のワンオペ店『mille』。“ひとり”という選択肢がもたらすもの

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オープンよりワンオペレーションでの営業を続ける『mille』の千葉稔生シェフ

飲食店において共に働く「人」は財産である。しかし、苦心して確保した人材と店作りの喜びを分かち合う体験は素晴らしい一方で、人間同士が関わりあう以上、摩擦が生じることも少なくない。なかには“ひとりでマイペースに店をやりたい”と考える飲食店オーナーもいるだろう。

東日本橋にあるフランス料理店『mille(ミル)』の千葉稔生シェフも、そんな考えを持つオーナーのひとり。接客から料理まですべてひとりで切り盛りする、いわゆる「ワンオペ」の店を運営している。なぜワンオペの店を作るに至ったのか、そして「ひとりで店を営業する」ために大切なことは何かを聞いた。

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想像を絶する苦労と共に得られる自由。「自分にはこのスタイルが合っている」

「正直、ワンオペ営業は想像を絶するくらいにキツイです(笑)。それでも、ひとりという自由さや、お客様や近隣の店のオーナーといい関係が築けることの楽しさを考えると、自分にはこのスタイルが合っているのかなと感じています」

東日本橋に店を構える、フランス料理と自然派ワインの店『mille』の千葉シェフはそう語る。2019年のオープン当初から、この場に立つのはシェフ自身のみ。食材の仕入れから仕込み、営業中の調理、料理提供、ワインサーブ、バッシングはもちろん、予約の受付や閉店後の清掃まで、13.5坪12席の店の切り盛りをすべてひとりで担い、月商約200万円を売り上げるという。

「ワインバーのような気軽な要素もありつつ、レストランに近いスタイルの店にしたかった」と話す千葉シェフは、19歳で料理の世界に入って以来23年間フレンチ一筋。これまで培ってきた技を活かし、ミルではお客が好きなものを自由に楽しめるアラカルトで料理を提供している。メニューは常時約20種類。ワンオペだからと大皿料理に頼ることなく、「盛り付けの美しさもフレンチの醍醐味のひとつ」と、シェア時の取り分けまでもシェフ自身が行うという徹底ぶりだ。

メニューの一例。基本は、突き出し、前菜、メインが各5種と、デザート、ワインのアテが数種類ずつのラインナップ

すべての仕事を自分のペースでできることが、最大のメリット

かつては本場フランスのレストランでも研鑽を積んできた千葉シェフが、「ひとりの店」を考え始めたのは、帰国後にシェフを務めたワインビストロがきっかけだったという。

「初めてカウンターキッチンを経験して、こういうのもいいなと思いました。ちょうど当時は、先輩たちから『スタッフの確保に苦慮している』という話をよく聞いていたこともあって、自分が独立するときはワンオペも選択肢だなって。人と人ですから、時に些細なことでぶつかることは僕自身も経験していたので、だったら逆に『どうすればひとりでできるか』を考えるようになりました」

オープンから3年半。体力的に辛いことも多いと言いつつ、ワンオペの何よりの利点は「すべての仕事を自分のペースで進められる自由さ」と「ひとりで完結できる効率のよさ」だと話す。

「仕込みの開始時間も帰宅時間も、休憩や食事のタイミングも、誰かに合わせたり気を遣ったりする必要がありませんし、用事や家族サービスでいつ店を休もうと自由。逆に僕も、スタッフの急なシフト変更や休みに慌てる心配もないですしね。人を管理をする必要がないということは、それだけ料理に集中できるということ。仕込みや調理にかかる時間も、自分の力量だから把握しやすいですよ」

一般的には、メニューの切り替え時や少しでも店のオペレーションに変更が生じた際にはスタッフ全員での共有が不可欠となるが、「ひとり」である以上はそれも不要というわけだ。

当初は「やってみなければどこまでできるかわからないという気持ちだった」と振り返りながらも、「僕のようなマイペースな人間は、ひとりがちょうどいいみたいです」と千葉シェフは笑ってみせる。

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山本愛理

ライター: 山本愛理

フリーライター・エディター。WEBを中心に食にまつわる記事を執筆。 昔ながらの喫茶店から星付きレストランまで、美味しいものを通して幸せな時間を提供してくれる人の声と熱を届けるのが好き。空いた時間はもっぱらカフェ巡り。