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ヒット業態の仕掛け人・スパイスワークス下遠野氏が語る「成功の方程式」

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店づくりでは、長く愛される老舗の「不変の法則」を参考にすることもあるという

街の印象や他業種のスタイルから新しい物語をつむぎ出す

━━貴社の店舗にはネーミングを含めストーリーを色濃く感じます。そうした「物語」って、どのように生み出されているんでしょうか?

下遠野氏 先ほどからお話している3つの掛け算のほかに、街からインスピレーションを受けて作り上げる事例もあって、御徒町の『オスシマチ』などはその事例ですね。近くにパンダ広場っていうイベント会場があって、いつも何かしらやっていて街のスポットになっている。せっかくお店をやるならそうした地域ともっと繋げたいなと考え、間口を広げて、握り手さんが見えるような空間にして「可視化」しました。

御徒町にある『ほぼ上野 オスシマチ』。周辺エリアがひと目で分かるような店名も秀逸だ(画像提供:スパイスワークス)

━━店づくりのヒントは、どんなところから得るのでしょう?

下遠野氏 同じ業界はあまり見ていなくて、他分野ですね。なかでも、アパレルとスイーツはよく見ます。アパレル業界って、ループが早いんですよ。飲食業界も、例えばラーメン店は4年で8割が潰れると言われていて、めちゃくちゃ回転が早い。流行り廃りもあるので、スタイルってすごく大事なんです。業態はイメージから入ることも大事なので、コンセプトは尖ったほうがいい。ただ、すごく綺麗で素敵なデザインをやっている人はいくらでもいるので、僕らは一歩先ぐらいが求められていることだと思っています。クライアントが知らなかったこと、本当はこうやりたかったんだっていう潜在的なニーズを見つけて応えてあげないと、僕らだって必要なくなっちゃうんだっていう危機感はあります。

ネオンに彩られたフォトジェニックな韓国料理店『ハンマート』など飲食店7店舗と、着物レンタル店が入居する『浅草横町』(画像提供:スパイスワークス)

「みんなであがいた3年」とメンテナンスの重要性

自社で飲食店を全国に40業態、約100店舗展開するほか、食関連の内装・施工・業態プロデュースは年間200件に上るというスパイスワークス。コロナ禍でも、多数のプロデュースを手掛け、成功させている。なぜ、同社に依頼が集中するのか。

下遠野氏 プロデュース案件は、じつはコロナ禍の第5とか第6波のあたりで、めちゃくちゃ増えたんです。みんな、自分のやっていることに自信がもてなくなっていたから。お店を開いてもお客さんが来ないのはコロナ禍という背景が非常に強いのに、理由を間違えて考えてしまっている方が多いのかなって感じていました。

ただ、当時は外食そのものというよりは、お惣菜屋とかスーパーのお手伝いだったり、いろんなコラボをして外食産業を救うっていう感じで。そこから、コロナ明けが見え始めてくると、業態変更などの企画案件が増えてきて、今はちょっと落ち着いた感じですね。みんなも落ち着いて物事が見えてきて、既存の業態を強くしていこう、自社で開発したものにエンジンかけてやっていこう、って流れになってきていると思います。コロナ禍を振り返ると、「みんなであがいた3年」だったのかなと思います。

建築業界でのキャリアがあり、みずから店舗デザインも手掛ける下遠野氏

━━プロデュースを成功させるために大事なことは何でしょう?

下遠野氏 一番気をつけているのは、メンテナンスです。僕はよく車に例えるんですけど、業態がマシーン(車)で、運営する人がドライバー、走る場所が不動産です。どんないい業態でも、お客さんの反応を見て予測と違ったらメンテナンスをしていかないとダメだし、走る場所もすごく大事。最初の1年はうまくいくかもしれないけど、2年目からはもう本当に手を取り合ってやっていかないと、ボロボロになって動かなくなっちゃう。店をオープンするのと同じぐらいの項目を、継続してずっと見ていくことがすごく重要です。

━━そこにも成功の方程式みたいなものはあるんでしょうか?

下遠野氏 もちろん、業態ごとにはありますが、僕らは内装もやらせていただくので、絶対これじゃないとダメっていうのはじつはなくて。田舎でもロケーションがすごくいい場所なら、商圏は30キロとかに広がりますし。ただ、相手先の企業の経営状態とか業態とか、社長の踏ん張りとか個性とかはすごく見ます。あと、どんな人が働いているかも大事です。あるチェーン店では、店長が2店舗に1人しかいなくてあとはアルバイトさんだったんですけど、20年とか30年選手ばっかりで、彼ら彼女らが作る空気がすごくいい。このスタッフさんたちだからこそこんな店が作れる、というケースもあります。あとは、毎回、コンセプトシートを作りこむんです。内部資料用も含めて。

コンセプトシートの一例。ビジュアルだけでも何枚ものイメージが綴じられている

━━コンセプトシート、どれも情報量がすごいですね

下遠野氏 内部でも軸がブレるから、やらないといけないんです。基本の大項目は僕が出して、週1の企画会議で担当者と微調整しながら作っていきます。最終的にはアルバイトさんに見せられるレベルまで落とし込みます。どんなにコンセプトを作りこんでも、オープンするとブレていくので、運営する上での指針にもなります。

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笹木理恵

ライター: 笹木理恵

飲食業界専門誌の編集を経て独立。スイーツ・パンからフレンチ、ラーメンなどまで、食のあらゆるジャンルを担当。飲食専門誌を中心に、一般雑誌やWEB、書籍などで活動している。「All About」「Yahoo!ニュース個人」でも執筆中。 https://foodwriter-rie.com/