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リニューアルした憩いの角打ち酒屋『イワタヤスタンド』。売上は赤字続きだった過去の3倍に

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酒類だけでなく乾物、調味料、駄菓子なども販売

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妻・舞さんも『岩田屋商店』に参画。女性客が増えるきっかけに

うつ病を患いながらも謙一さんは店に立ち続けた。人手が足りなかったのだ。「その頃から、新店舗オープンには妻の力が必要だと感じるようになりました」と、謙一さんは当時の心境を明かす。妻の舞さんは前職の同僚で、同じく社会福祉士だ。

「ゆくゆくはお店を継ぐだろうと思っていました。ただ、こんなにも早くお店を継ぐことになるとは思っていなくて。私自身も社会福祉士の仕事に誇りを持っていたので、もう少し続けようと考えていましたが、夫や夫の家族のこと、お店を見ていたら、私が手伝わないとどうにもならないなと思ったんです。そこで2022年3月に公務員を辞め、翌月から『岩田屋商店』で働き始めました」(舞さん)

舞さん参画のきっかけは『岩田屋商店』の苦境だったが、謙一さんと一緒に取り組む新たな店作りには、ワクワクする気持ちもあったという。

お店のスタッフに女性が加わったことで、次第に女性客も増えていった。また、舞さんの人柄も影響してか、お客との距離感が以前よりも縮まっていくのを感じたという。

思わず、あれもこれもと頼みたくなるラインナップ。全品400円均一なのも嬉しい

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リニューアルと地道な店作りで売上3倍。「地域に暮らす皆さんの“受け皿”になりたい」

店舗建て替え後の2022年11月22日、『イワタヤスタンド』として大きくリニューアル。常連さんも店舗の引っ越し作業を手伝うなど、すでに街の人々に愛される店へと成長していた。

リニューアル店舗のコンセプトを象徴しているのが、店先に掲げられた「のれん」だ。

「のれんに描かれているのは、三日月ではなく、“受け皿”です。これは社会福祉士として働いていた際、生活保護や社会保障のことを“受け皿”と表現していたことに由来しています。受け皿は生活において大切なもの。岩田屋商店とイワタヤスタンドは、地域に暮らす皆さんの受け皿になりたいんです。そして、二つの星は私たち夫婦を表しています。私たち二人が街を照らす存在になれたら、という意味を込めています」(謙一さん)

■料理は角打ちメニューと思えぬクオリティ。夕飯がわりに食べていく人も
リニューアル後に人気を博しているのが、舞さん特製の手料理だ。全て国産食材で、なるべく無添加、店内で販売している厳選調味料を使うというこだわりぶり。角打ちでいただける料理とは思えぬクオリティを誇る。例えば「もつ煮込み」は国産豚モツを三度ゆがいてから、たっぷりの野菜とともに丁寧に煮込む。「ポテトサラダ」はクミンのスパイシーさと、いぶりがっこのコリコリ食感をアクセントに。お店で販売している乾物を使った「イワタ焼き」には、お麩とネギ、焼きちくわをたっぷり入れ、食欲そそる焦がし醤油とダシ粉で優しい下町の味を演出している。

「お酒のアテだけでなく、夕飯がわりに食べていく人もいますし、テイクアウトも始めたので、お惣菜として買って帰る人も増えました」(舞さん)

お酒は店に並ぶものを抜栓して味わえる(抜栓料50〜900円)のはもちろん、甲類焼酎と「天羽の梅」を使った三代目特製の焼酎ハイボール「イワタヤボウル」なども新たにラインナップされ、注目を集めている。

コロナ禍の規制が緩和されたこともあり、リニューアル後の平均来店客数は平日で100〜150人、土日祝で200〜300人、そのうち角打ち利用は7〜8割にも上る。客単価は1,500円だが、中央値は2,000円程度と立ち飲み並みに高い。その結果、売上は仮店舗時代の2倍、両親が経営していた時代の3倍にも伸びた。

1杯から飲めるお酒のメニュー。日本酒の「のみくらべ3杯セット」なども

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中森りほ

ライター: 中森りほ

グルメ系ウェブメディアの編集・ライターを経てフリーライターに。フードアナリストの資格を持ち、現在マガジンハウス『Hanako.tokyo』や徳間書店『食楽web』、ぐるなび『dressing』、日経『大人のレストランガイド』などで飲食店取材記事や食のエッセイを執筆中。