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リニューアルした憩いの角打ち酒屋『イワタヤスタンド』。売上は赤字続きだった過去の3倍に

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『岩田屋商店』三代目の岩田謙一さんと妻の岩田舞さん

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墨田区東向島の地で1935年に酒販店として創業した『岩田屋商店』は、三代目となる岩田謙一さんが先代から引き継ぎ、2022年11月に店舗をリニューアル。角打ちも楽しめる酒屋『イワタヤスタンド』として新たなスタートを切った。現在は、日本酒や発酵食などを売りとして、妻の舞さんらご家族とともに運営を行っている。時代に合わせて経営スタイルを変えていく勇気、地域との関係性など、個人店の可能性を最大限に活かした店作りについて聞いた。

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社会福祉士として働いていた公務員が、実家の酒屋を継ぐまで

岩田家の末っ子長男として生まれた謙一さんは、子供の頃から店番を任されていた。その頃から「三代目」と呼ばれ、地元の人に親しまれていたという。当時は『岩田屋商店』も、店がある東向島の商店街も賑わいがあったそうだ。

状況が変わり始めたのは、酒類販売免許が全面自由化された2006年。スーパーやコンビニ、ドラッグストアなどでも酒類が販売されるようになり、次第に酒屋は苦境に立たされる。『岩田屋商店』の場合は酒類販売だけでなく、地元の小学校などへ乾物の卸も行っていたためなんとか凌ぐことはできたが、「生活していくのがやっとだった」と謙一さんは当時を振り返る。その頃は売上が1日1万円に満たない日も珍しくなかったそう。

■約8年かけて家族を説得
謙一さんは大学を卒業後、かねてからの夢だった社会福祉士として役所で働き始める。一方で夜勤明けや週末の休みには、人手の足りない店の手伝いも行った。

しかし、そんな謙一さんの努力も虚しく、『岩田屋商店』は2001年以降売上が年々10%ずつ下がり、毎年赤字を重ねるように。さらにご両親の高齢化、建物の老朽化などの問題もあり、次第に謙一さんはお店の継承について考え始めるようになる。

「まずは『岩田屋商店』の改革について、家族向けにレポートをまとめました。店を建て替えて角打ちを設けることも、その頃(2010年)に構想していたんです。やはり、お酒の小売り販売だけでは生き残れない。コミュニケーションが生まれる場を作るべきだと考えたんです。しかし家族に説明しても『お前はまだ働き盛りだから、大変な酒屋は任せられない』と一蹴されてしまって。やっと説得できたのが2018年頃でした」

35坪で店内の角打ちスペースは収容人数22人、外席は10人

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経営者に必要なのは「先を読む力」

謙一さんは2019年の3月末で公務員を退職し、同年4月1日に酒屋の事業へ参画。事業を継ぐという意思を表明するかのように、参画前日の3月31日深夜、妻とともに店の棚を撤去し、壁に色を塗り、テーブルを作って、角打ちスペースを設けた。

「でも、スペースを設けただけじゃ客数は変わらなかったんです。初月の角打ち客数はたったの二人でした」

そこで次に改革したのが、酒の仕入れ方法だった。

「お酒は元々問屋から仕入れていました。問屋は支払いや配送も楽ですし、種類も満遍なく揃っていますが、どうしてもほかのお店と変わらないラインナップになってしまう。だったら、自分の足で探した珍しい日本酒を取り揃えようと考えました」

ところが、ほどなくしてコロナ禍へ突入。飲食店の営業自粛が呼びかけられる。

「うちの場合は『飲食店』ではなく、『酒屋の角打ち(お客による抜栓)』としていたので、幸いにも営業を継続できていました。そこで2020年5月、限定流通の日本酒を大量に仕入れる賭けに出たんです」

この読みが見事に大当たり。5月、6月と歴代トップの売上金額を叩き出し、客足は増加した。軌道に乗り出した謙一さんが次に思案したのは、店舗建物の改築とリニューアルの時期だった。

■コロナ規制の緩和を見越し、2022年秋~年末頃のリニューアルを目指す
「リサーチと分析を重ねた結果、2022年の秋や年末頃には新型コロナ関連の規制も緩和されるのではないかと考え、その時期に向けたリニューアルを目指しました。また、店舗のある墨田区東向島は、ここ10年間のマンション建築ラッシュにより、毎年10%ずつ人口が増加しているらしいんです。特に酒屋のターゲット層である30代~40代が増えてきているというのも、リニューアル実施の後押しとなりました」

改築中の仮店舗は新店舗の4分の1にも満たないスペースだったが、ここにも角打ちを設けたところ集客力が向上。結果的に、両親が経営していた頃よりも高い売上を記録した。

こうして、民生委員のかたわら店舗リニューアルと運営を精力的に行う謙一さんだったが、事態は思わぬ方向へ転がる。多忙を極めた2020年8月、謙一さんはうつ病と診断されてしまったのだ。

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中森りほ

ライター: 中森りほ

グルメ系ウェブメディアの編集・ライターを経てフリーライターに。フードアナリストの資格を持ち、現在マガジンハウス『Hanako.tokyo』や徳間書店『食楽web』、ぐるなび『dressing』、日経『大人のレストランガイド』などで飲食店取材記事や食のエッセイを執筆中。