学芸大学×酒場のレインカラーはなぜ「カフェ」を開業したのか? 目指したのは働き方の多様性
競合はコンビニ。「こんにちは」から始まる温かいコミュニケーションが鍵に
とはいえ、二人そろって菓子づくりの経験はゼロ。納得のいく商品が出来上がるまでには、相当な苦労を重ねたと笑ってみせた。看板メニューを決める際に軸に据えたのは、「愛らしさがありつつ、普遍的に親しまれるお菓子」。その上で、子どもが食べやすいサイズ感、日常的に手に取れる価格、手土産にも利用できる美味しさなどのポイントを考慮し、生産体制の整備とともに一から商品設計してたどりついたのが「エッグタルト」だった。
実際にプロのパティシエからつくり方を学んだのはまどり氏。「パイづくりは本当に難しくて、何度も挫折しそうになりました。でも喜んでくれる子どもたちやお客様の顔を思い浮かべると、負けてたまるか!って(笑)」。4日間かけて仕込んだ生地を2度焼きすることで、ザクッとした食感のパイの中からトロリとカスタードが溢れ出す見事なコントラストを生み出した。
エッグタルトは1つ280円から、ドリップコーヒーも490円(いずれも2023年5月現在)と、リーズナブルな価格も手島氏が重視したポイントの一つだ。無論、酒場と比べれば圧倒的に客単価は低い。だからこそ経営戦略は重要だと語る。
「イタリアには『Mio bar(ミオ・バール=私のお気に入りのバール)』という文化があります。毎日、朝昼夕とコーヒーを飲みに行くほか、ランチにパニーニを食べたり、バスチケットやたばこを買ったり。一見コンビニで事足りるものですが、人々はマスターとの会話や居心地のよさを求めて足繁く通う。今の日本も、美味しいコーヒーやパンならコンビニで100円で買える時代です。カフェがそこに勝つには、『また来たい』『1日に何度も行きたい』と思ってもらえる期待以上のクオリティとコミュニティづくりが鍵だと思っています」
その点これまで、何よりも親しみやすさを大切にし、地域と密な関係性を築いてきたレインカラーの強みは大いに活かされている。実際、「いらっしゃいませ」ではなく、「おはよう」「こんにちは」「お帰り」と声をかけながら一人ひとりの客と向き合う『サニーサイド レインカラー』のインスタグラムには、世代や性別を問わないさまざまな笑顔の写真があふれている。
また、エッグタルトは系列店でデザートメニューとして横展開することはもちろん、卸販売やイベント出店など新たな販路も視野に入れていると語る手島氏。現在、思案中というタンブラーやトートバッグなどカフェならではのグッズ販売も、酒場とは違った売上戦略の一案といえそうだ。
